推しの声

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 午後から少しローズガーデンの手入れに向かうと、チラホラ見物人の姿もあって俺はいくつか整えてさっさとその場から退散した。  爺ちゃんと婆ちゃんがデザインして作ったらしいそこは無料開放をしていて、このバラの咲く時期は写真を撮りに来る何か大きなカメラを構えた人やデートをするカップルの姿をよく見る。  俺はそれを避けるように最低限の仕事をして手にしたバラを持って工房に籠もった。  プリザーブドフラワー用に見栄えのいいのを見繕う。  ジャム用は朝に選んで仕込んであるので、後はポプリ用。  手袋を嵌めて薬液を用意するとバラを手にして匂いを嗅いだ。  昔からこの香りと共に育って俺にとっては落ち着く匂い。  ゆっくり吸い込むとさっき人を見つけて強張った身体も解れる気がする。 「……よし、やるか」  一度バラを置いてグッと伸びをすると、俺は作業に入った。  こんな綺麗に咲いたバラでもあっという間に枯れてしまう。  それがちょっと切なくて、俺も婆ちゃんみたいにジャムやポプリの加工を始めた。  だから、プリザーブドフラワーという長く美しく花を咲かせる技術には驚き、夢中になった。  何とかネットで情報収集しながら俺も作るようになって今に至る。  しかも、実際には不可能な青いバラもこの技術を使うと作り出すことができるのは嬉しかった。  これだと色の調節もできて、濃淡まで自在だ。
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