推しの声

6/8

121人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
 作業に没頭し過ぎていつもよりベッドに入るのが遅くなった。  しかも、そんな日に限って“R・B”が雑談配信をしていて俺は慌ててヘッドホンを着ける。 『……んだよねぇ!だから、行ってみたいわけよ!……っておい、アオーぉ!せめて相槌とか打てよ!は?嫌そうな顔すんなっ!!もー本当ね……喋んなきゃわかんねぇよなぁ?』  いつもの明るいアカの声。  一人喋りが続いて、アカが反応を促してもアオの声は聞こえてこない。  その通常運転に安心する。  いや、もちろん声は聞きたいのだが、滅多に聞けないからこそ貴重でもあって尊い気もしているから……ファンとしては複雑だ。 『だからね!今、取材交渉中なんだ〜!楽しみっしょ?や!お前も行くんだからな!「イヤ」は認めねぇ!』  リスナーに呼び掛けたり、アオに突っ込んだり……アカが一人で話しているのにちゃんとそこにアオを感じるのが凄い。 『初の取材を元にしたイベント配信になるかもだから!楽しみにしててな!』 『……チ』  アカの声に隠れて薄っすら聞こえた舌打ち。  これはきっとアオだ。  取材とか絶対に嫌なんだろう。  そんなアオを想像して(顔は知らんけど)思わず笑ってしまった。 『じゃ!次回は水曜の夜、いつもの時間にゲーム配信するから!またな!おやすみ〜っ!!』  ゲーム音が流れて配信が終わる。  あの舌打ちを何度も思い出しながら俺はしばらくスマホを握り締めていた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

121人が本棚に入れています
本棚に追加