推しの声

7/8

121人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
 朝早くから販売用の鉢植えや切り花用の苗を管理するハウスを覗いて花を摘む。  朝採れの咲き始めの花はジャムに使うことも多くて香りを楽しみながら作業できるこの時間が好きだ。 「庭園の方も結構花があるけど……どうする?」  母さんが顔を出して抱えている花たちを見る。 「……一部プリザーブドフラワーにしても良さそうだけど……ほとんどポプリだな」  花は綺麗に咲いているが、売り物にしようとすると厳しい目を向けないといけない。 「じゃあ、安く売っちゃう?」 「いいんじゃね?前の好評だったんだろ?」  姉は「安売りするな!」と怒るだろうがそういうのもいいと思う。  トゲも葉も落とさず、包装もしないでバケツに入れただけのバラ。  それを以前一本百円で売ってみたら午前中の早い時間にすぐになくなってしまった。  そうやって気軽にバラに触れてもらうのも大事だと思う。  だから、ローズガーデンだって無料開放をしているんだから。 「じゃあ、ここら辺のやつは販売所の方のバケツに入れておくわね!」 「あぁ」 「あと、朝ご飯すぐだから、キリつけていらっしゃいよ?」  一度出て行った母さんがもう一度顔を出す。 「んー」  花びらを一枚ずつ外して苦みやエグみが出やすい花びらの基部を切りながらとりあえず返事をして水に浸した。  すぐと言われても作業を止められないのが俺で、母さんもそれは知っている。  結局、ジャム作りに没頭していた俺は出勤してきた姉に呆れられてやっとその手を止めた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

121人が本棚に入れています
本棚に追加