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プロローグ
「俺、この人と結婚することにしたから」
三年間、交際を続けてきた彼氏の衝撃の告白である。杉田香美(すぎた こうみ)は、それを聞き驚天動地のショックを受け激しく動揺してしまう。
いきなりの彼氏からの呼び出しに「プロポーズかな?」と胸を高鳴らせてアパートの部屋を訪れてみれば、彼氏の隣にいたのは見知らぬ女。
香美は「姉かな? 妹かな?」と気になって尋ねてみれば、結婚相手だと言う。
どうやら、あたしは浮気をされていたようだ。瞬時にそれを理解した香美は彼氏の顔を修羅の形相で睨みつける。
見知らぬ女性は腹を擦りながらイヤな笑顔を浮かべ、香美に宣った。
「今日、病院行ってきたんです。三ヶ月だって。そう言う訳ですので、杉田…… さん? でしたっけ? まーくんとは別れて下さい」
彼氏は半笑い気味に頭をボリボリと掻きながら悪びれずに述べた。
「三ヶ月前にクリティカルヒットしちゃったみたいでさ? 俺も身を固めることにしたからさ?」
香美が彼氏と付き合い始めたのは三年前、26歳の時。出会いは会社の合コン。三年間、彼氏彼女として交際を続けてきたのだが、なかなか結婚の話を切り出してこない。
実家の両親からも結婚の催促の矢が放たれるために、香美は彼氏に結婚の話をそれとなく振ってみるのだが、のらりくらりと躱されてしまう。
三年が経過し、29歳のアラサーになったあたしを捨てると言うのかこの男は! 女の花の盛りを丸々捧げさせて、この仕打ち。
怒りは怒髪天を突くというもの、香美はドスの利いた低い声で彼氏に尋ねた。
「いつから、この方とお付き合いなさっていたのですか?」
彼氏は気まずそうに天井を見上げた後、申し訳無さそうに俯きながら重い口を開く。
「え、えっと。香美と付き合い始めたぐらい? 大学のサークルの後輩でさ、23歳で社会出たばっかで辛い時期で相談に乗ってたら、そのままズルズルと」
あたしより若い女と二股をかけていたと言うことか。三年間、二股をかけられていて気が付かないあたしが馬鹿なのか、彼氏が巧みだったのかはどうでもいい。とにかく、浮気相手の妊娠で二股生活にも終止符が打たれたということになる。
それならば、あたしの出る幕はもうない。香美は納得がいかないながらに承服せざるを得ない。
「アンタ、最低よ!」
香美は彼氏の頬に渾身のビンタを叩き込んだ。それを甘んじて受け、頬に紅葉が咲く。
浮気相手は「まーくん可哀想~♡」と、言いたげなあざとい顔をしながらハンカチを濡らしに台所に向かって駆けていく。
香美はそれを一瞥もせずに足早に部屋を後にする。
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