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第一章 ヤクザ吸血鬼襲来! 交際期間ゼロ秒で結婚!
「やっば…… 飲みすぎた……」
香美は千鳥足気味に渋谷沿線を歩きながら、帰路に就いていた。
考えることは彼氏と過ごしてきた三年間。その三年間も彼氏にとっては、若い浮気相手との付き合いの片手間仕事。こう考えると実に胸糞が悪い。
酔いもあってか、彼氏に対する呪詛の言葉を東京の星一つ見えない夜空に向かって叫び続ける。疎らにすれ違う通行人も気の毒な目つきで香美を見た後に足早に去っていく。
「チキショー! 29歳になって放流されたーっ! ふざけんなーっ!」
香美であるが、男に対する理想は高い。三高は基本のこと、年齢も価値観を合わせるために同世代、介護に巻き込まれたくないから長男NG、尚且つ面食い。
どれか一つも妥協する気は一切なし。
元彼はこの近年では珍しい全てを兼ね備えた優良物件。香美にとっては太平洋に浮かぶ木の葉をピンポイントで見つけたようなもの。絶対に逃さないと言う気概があった。
勿論、この三年間の交際で愛も芽生えている。
捨てられた今でも思うが、元彼はかなり魅力的。そんな男に目をつけない女がいないわけがない。そして、あたしはそんな男に捨てられた哀れなアラサー女。
ああ、惨め惨め。香美の酒の酔いと上がった体温は夜空の寒さでも覚め(冷め)ることはない。自分が大物を逃した現実を思い出してしまい、目から涙が溢れだす……
歩き続けること、一時間。香美は三軒茶屋へと辿り着いていた。自分のアパートは目と鼻の先…… 帰って寝て起きて二日酔いが辛いようなら、会社休んじゃおうかなぁ?
そんなことを考えていて足下を見ていなかった香美は「何か」に躓き、珍妙な悲鳴を上げながら膝から転倒してしまう。
「ののわっ!」
あいたた…… 香美はゆっくりと立ち上がる。一体、何に躓いたのだろうか? たった今人生に躓いているのに、現実で躓き怪我をしていては世話がない。
香美がゆっくりと振り向くと、躓かせた主が目に入ってきた。
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