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逃げ切りたい男との出会い
春です。
暖かい日差しに包まれて、本当に暖かいです。
体も心もポカポカです。
ん?
春?
もう夏だよね?
「おはよう」
癒されるイケボが聞こえ、渡瀬響が目を開けると、すぐ横には直視できないほどイケメンな、黒澤成が笑顔で響を見ていた。
「!」
この状況がわからず、響は慌てて飛び起きた。
飛び起きてから気が付いたら。
もしかしたら、自分はこの目の前の男とやっちまったんではないかと。
真っ裸なんだと。
「……着てる」
自分が洋服を着ていたことに響は心底安堵した。
「はいはい、整理しましょうね」
楽しそうに成は言って、響から離れてダブルベッドから起き上がった。
「まずは、昨日の事はどこまで覚えてる?」
成の問いに、響は恥ずかしさに俯く。
「昨日は、相良主任の企画が採用されたお祝いで」
「うんうん」
「課長の奢りで居酒屋で飲んでて」
「そうだったね」
成はホテルの冷蔵庫から、冷えたミネラルウォーターを2本出すと、1本は響に渡した。
「……ありがとうございます」
ペットボトルを受け取り、響は居た堪れず俯き続ける。
「よほど楽しかったんだね」
成の言い方にトゲを感じて、響はベッドに額を擦り付けて土下座する。
そうだ。
楽しかったのだ。
そして楽しすぎて、記憶がなくなるまで飲んでしまったのだ。
「ごめんなさい!楽しかったのは記憶があるんですが、その先が全く!なんでこんなになるまで飲んだのか、本当にどうしちゃったのか」
お酒で記憶をなくすのは初めてだった。
本当にどうしてこんなことになる程飲んでしまったのか。
「昨日は何を飲んだ?」
「え、と。最初にビールで乾杯して、それからカクテルを飲んで、誘われるままワインを飲んで……」
記憶にあるのはそこまで。
いくらなんでも、今までの事を考えても、数杯程度で記憶がなくなるほど飲むわけではない。
「日本酒飲んでたよ」
「え?」
びっくりして響は顔を上げると成の目を見た。
「そのペース、尋常じゃなかった」
成に指摘されて、響は昨夜のことを思い浮かべた。
「そうだ。日本酒も飲んだんだ」
そこから記憶が曖昧になり、現在に至る。
「ちょっと待ってください!酔った原因は分かりました!でも!」
響は、バスローブ姿でソファに腰掛けて、ミネラルウォーターを飲む成を見つめた。
「あなた、誰ですか?」
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