逃げ切りたい男との出会い

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「凄い!凄い!何これ!」 バスルームから大声が漏れて来て、成は驚いた後にクスッと笑う。 「うわぁ。やっぱり15万のホテルは違うぅ!何、この可愛いシャンプーとか!キャー良い香りッ!」 興奮しすぎて、思っていることが全て大声になっている事に響は気が付いていなかった。 「これ、どこのブランドだろう!あ、ホテルオリジナルかぁ。もしかしたら、コレもうちの商品だったり」 仕事柄、響はどうしてもホテルのアメニティグッズは気になってしまう。 響の会社は、全国のホテル、旅館、スパや美容院等のクライアントから注文を受けた、オリジナルアメニティを提供している。 そして響が所属する第2企画部は、シャンプーなどのバスグッズのアメニティを、クライアントからの依頼やコンペ等でプレゼンをする部署だった。 「シャワーが別になってる!テレビで見たことあるー!一度使ってみたかったんだよねー!しかも、バスルームに窓があるとか!わー!丸の内一望!うちの会社のビル、見えるかなぁ」 ガラス張りのシャワーブースにはしゃぎ、バスタブの中に入るとガラス窓に顔を押し付けて、頬が潰れているのも構わずに外の風景を響は堪能する。 「よーし、泡風呂にしーちゃお」 バスジェルをバスタブに入れると、響はバブルバスを愉しむことにした。 「あッ!」 バスタブにバスジェルを入れてから、響はハッとして手を止めた。 「……もったいないことしたー。持ち帰りにすれば良かった。せっかくのサンプルがぁ」 すでに遅しで、響は落胆した。 もう二度と、こんなホテルには泊まる事はないのにと、悔し泣きしながらバブルバスに身を包むのだった。
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