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第十話 男運の悪さの黒歴史
シーン…
静かなお堂にて、瞑想する女がひとり。
さとこの趣味はお寺巡りだ。
時に写経をしたり、座禅をしたり。
教職、しかも非常勤という立場上周りに気を遣いストレスも多く、加えて親と同居のため自分のプライベート空間が少ないことからリフレッシュするために始めた趣味だが、これが予想以上にハマった。
無になれる時間。
瞑想初めは雑念が多いが、それを無理やり払拭しようとするのではなく、ただあるがままを感じていると、次第にモヤモヤが消え心が軽くなっていく。
それがなんとも心地よかった。
頭に浮かぶ雑念は直近の出来事も多いが、遠い昔の記憶も時に鮮明に思い浮かぶ。
季節は冬間近。
ハロウィンが過ぎれば街もクリスマスモード一色になり、過去の忌まわしい記憶もよみがえってきた。
それは十年以上前、元夫の前につきあっていた人とのひとコマ。
7つも年下で大学出たばかりの若造くん。初めてのクリスマスを前に、予定をたてようと考えていたさとこ。
当然クリスマスという恋人達の一大イベントは一緒に過ごすもんだと思っていた。
それなのに…。
「ねぇ、クリスマスどうする?」
腕を組みながら街を歩く初々しいふたり。
ショーウィンドウにはクリスマスギフトが並び、イルミネーション輝くロマンチックな夜。
「オレ仏教徒だから、クリスマスとか無理だから」
・・・
……
はい?
クリスマスとか無理だから
無理だから???
仏教徒だからって、何ー!?
言っておくがその彼の実家はお寺とかではない。
「あ…そうなんだ…」
その話をすると咲希は大爆笑。
忍は心配そうに聞いていた。
「ちょ、ちょっと待って。そしたら初詣もオレ仏教徒だからって断るのかなwwwいっぺん聞いてみてよー」
「なんていうか…不器用なタイプの人なのかな」
反応と解釈は違うが、友人達ふたりから出た意見は一致して、
「そんなデリカシーない男なら別れたほうがいいよね」
「やっぱり…そうだよね…」
結局クリスマスを前に別れを切り出したらしいが、彼は別段動じることもなかったらしい。
(そもそもどうしてつきあったん?)
その後新年の女子会を行い、自然と話が恋愛の黒歴史となった。
「実は私この前街コンに行ったんだけど、すごい人がいてさ…」
(注釈1)街コンというのは、今から10年くらい前に流行っていたもので、ようは婚活パーティみたいなものです。
当時は全国至るところで行われていました。
友人に誘われ、咲希は医者や弁護士などエリートが集まる婚活パーティに参加。
友人は弁護士と気が合い話こんで、ひとりになった咲希に男が声をかけた。
名刺を渡されると、開業医。
年齢は40代前半。
スラット背が高く、銀縁の眼鏡が似合う紳士的な男。
ちょっといいかも…。
エスコートも話もスマートで、咲希はちょっと心動いた。
まんざらでもなさそうな咲希の様子を見て、男は再度一押ししてきた。
「栗野さん、僕との交際を真剣に考えてみてもらえませんか?」
イケメンエリート医者との将来を考えたら、前途洋々だ。
「はい、私でよければ…」
そう返事をすると、待ってましたと言わんがばかりに、男は本性を表した。
「はい、これ」
「へっ?」
男は千円札を渡した。
「なんですか?これ」
「僕とつきあうということは、私の下僕になるということだ。これで首輪を買ってきなさい」
サー…
顔がひきつり、血の気が引く。
エリートって、変態の集まりなのか??
千円札を咲希の頬にピチピチ当てると、男は言った。
「今夜が楽しみだね…」
フフッ、と獲物を捕まえたドラキュラのような笑い。
「わかりました、御主人様。それではワタクシ、首輪を買ってまいりますね」
咲希はその場の空気を読み、従順な下僕を演じた。
「フフッ、わかればよろしい」
にっこり笑って、咲希はその場をあとにした。
もちろん、会場に戻ることはせず。
その千円は、コンビニの募金箱に入れてきた。
「あの頃は婚活に必死な友達がいてさー、相席屋に行ったりもしたわねー」
(注釈2)相席屋というのは異性と同席になる居酒屋で、席が埋まると女性はお得にお酒飲んで食事できたりするので、相手探しというより飲食代浮かせたくて利用する女子もわりといました。
今ではほとんどなくなってるのかな??
(注釈3)街コンでの話は友人が体験した実話なので、今はマッチングアプリとかの出会いも多いかと思いますが、くれぐれも肩書や第一印象に騙されないようご注意を。
「咲希…変な人に捕まらないように気をつけてね」
さとこは真剣に心配していた。
「忍は?何かないの黒歴史?」
「私はそもそも男の人とつきあったことがないのが黒歴史よ。この年でそんなの恥ずかしいし…」
人それぞれ、いろんな黒歴史があるものです。
それにしても世の中フツーの恋愛してる人が多い中、
なぜさとこと咲希はこんな男達と遭遇してしまうのか??
それは誰にもわからない。
とりあえず男運の悪さというものは、簡単には変わらないものです。
持って生まれたものなのか…
フゥ…。
毎回ため息がこぼれる女子会なのでした。
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