第二十二話 FESTIVAL

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第二十二話 FESTIVAL

老後同盟の3人は、何かしらあると招集をかけ集まってストレス発散をし、平静を取り戻すことがいつしか習慣となっていた。 外で食事することも多いが、高校時代から忍の家に集まることが多かった。 ひとりっ子で他の兄弟に気兼ねすることもないし、親は下の部屋におり借家の2階二部屋まるまる使えたので、広々とした旅館のような開放感の部屋で存分に遊べるのが好都合だったからだ。 今回最初に声をかけたのはさとこ。 「今年も正規雇用は無理だった…」 「…そっか」 「私もさ、料理コンテスト一次予選は突破できたんだけど、一般投票僅差で本線出場無理だった」 ふたりともしょんぼりしている。 なるほど、今日は残念会だ。 「あっ、でも今まで通り非常勤は継続できるから。これも失ったらバイト暮らしになるし、まだ救いだよね。教師以外やったことないから、今更他の職種に転職なんてハードル高いし」 さとこは冷静に現実を受け入れている。 「私も料理の道なんて素人だし、そう簡単に受かるほどあまい世界じゃないよね~」 「そんなことないよ。咲希の料理ほんとおいしいしプロ並みだし。インスタに挙げてる写真もお店で出せるくらいだもん。今回合格した人一般の主婦の人もいるらしいし、次はいけるよ」 「ありがとう。忍はいつも優しいね、フォローしてくれて。そういえば派遣先の会社でのプレゼンどうなった?」 「それが…受かっちゃった」 「えっ!うそっ、おめでとう!なんでもっと早く教えてくれなかったの?? 今日みんなで残念会になるかもって覚悟してたのに」 「咲希そんなこと思ってたの!?」 「ふたりの手前言い出しづらくって…」 「そんな気を使わなくていいのにっ。忍すごいねー。でどんな企画なの?」 先日の社内プレゼンで、忍はゴミ拾い大会の企画を発表した。 「最近ではゴミ拾いをスポーツとして世界大会も行われており、例えば商店街や下町のような地域で行うことで集客にもなりますし、街もきれいになって一石二鳥だと思うのです。地元の方に参加していただければ自分の住む街の清掃活動を行うことで、改めて身近なところの良さを再発見してもらい、地元への愛情を持ってもらうことで地域の活性化にもつながることでしょう。より参加者を募るために景品を準備し、地元の特産品をセレクトすることで宣伝効果も得られます。それはまちおこしの祭り、題してゴミ拾いdeフェスティバル!」 なるほど… 参加者は皆興味津々に耳を傾け、発表が終わると拍手の嵐。 「今その企画の実行に向けて動いているんだけど、私は何と!金一封もらっちゃいました」 「えっ!すごいっ」 「いくらいくら??」 咲希の食いつきがすごい。 「十万円…」 「なんて太っ腹な会社!私も働こうかな!?」 「咲希のノリには確かに合ってるかも…」 落ち込みどんよりの慰め会が、忍の逆転ホームランによりお祝い会に変わる。 「せっかくだからこのお金で、今度みんなで旅行しようか」 忍の提案に大喜びなのは咲希で、遠慮するのがさとこ。 「そんな!忍ががんばって手に入れたお金なんだから、自分で持っときなよ」 「だって、3人で旅行なんてしばらく行ってないし、みんなで行ったら楽しそうだもん」 「いいねー、いこいこ♪私手配するよー?」 旅行好きな咲希は安いプランにも詳しいし、持ち前の行動力で毎回計画をたてる3人の中のまとめ役なのだ。 「ちょっと咲希〜、少しは遠慮しなさいよ」 「人の善意にはあまえちゃいましょう。お礼に今度夕食奢るとか、それでいいんじゃない?」 友人ふたりの兼ね合いをみて、当事者の忍は笑っている。 昔から変わらないスタイル。 生真面目なさとこと、ちゃらんぽらんな咲希の真逆のやりとり。 まるで漫才みたいな様子がいつもおかしかった。 もう二十年以上前なのに、高校時代のセーラー服の姿が目に浮かぶ。 「まぁとりあえずお菓子でも食べようよ」 突然押しかけたりするのに、いつも忍は大量のお菓子やジュースを用意してくれている。 それにあまえてポテチをポリポリ、ジュースゴクコクプハッ。 夜になればお酒も登場したり、半端ないおもてなし。 もちろん、その分のお返しは別にしている。 差し入れだったり、外でごちそうしたり。 三者三様、持ちつ持たれつ。 誰かひとりに負担をかけないトライアングル。 それが、友情が長く続く秘訣かもしれない。 「ねぇ、今日泊まっていい?明日みんな休みだよね」 さとこのお願いを、忍は快諾。 「もちろんいいよ。そのつもりでワインも用意してあるよ」 「わーい、忍大好き!後でスーパーに夜ご飯買いに行こう!」 近所には大型スーパーがあり、夜は惣菜が半額に値引きされる。 ガラガラカートを押し、それぞれ好きなものを入れていく。 ポテサラ、焼き鳥、からあげ、お寿司、お刺身。 半額なのでかごに山盛り買っても、ひとり千円程度。 「ちょ、ハーゲンダッツ安いっ」 アイス大好きな咲希が飛びつき、皆好きなフレーバーを選ぶ。 ラムレーズン、抹茶、ストロベリー。 「なんか楽しいねー、こういうの!」 竹内家に戻りテーブルの上に買ってきたものを広げると、ものすごいごちそう感。 「今日はお惣菜祭りだ」 写真にはこだわる咲希が構図を決め並びを手直しし、さとこがぬいぐるみを借りてかわいく演出する。 ここはさすが小学校の先生、子どもが喜ぶような仕掛けが得意。 「みんなで写真撮ろうよ!」 咲希がスマホをタイマー撮影にセットし、見ていた忍を手招きする。 自分の部屋なのになぜか友人達に占領されている気がしないでもないが、にぎやかで楽しい。 パシャ 高級なレストランでもないし、豪華な食事でもない。 スーパーの派手な半額シールが貼られた残り物のお惣菜と、ありふれた袋菓子。 だけどすごくおいしくて、いつもいる部屋なのに妙に明るくて、笑って食べて飲んで。 何を食べるかより、誰とどう食べるか、なのかな。 何気ない日も 落ち込んだ日も 悲しい時も うれしいことも 大好きな友達が一緒なら お祭りみたいに楽しくて最高な日になるのね。 忍は、そう感じていた。 それは、さとこも咲希も同じ気持ちだろう。 みんなの笑顔がはじけていた。
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