第二十四話 やらせろ事件、その後

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第二十四話 やらせろ事件、その後

数日後、今度は咲希の緊急招集依頼がグループメッセージに流れた。 『もう彼氏とは別れる』 『ええっ!?』 何事かと今回は久しぶりに咲希の自宅に集まる。 話を聞いて、さとこは憤慨した。 「何それ!女をなんだと思ってんの!?」 「いくらなんでもひどいねその言い方は…」 忍も寄り添い共感する。 「今までだってそんな気分じゃなくても、我慢して合わせてきた。でも今回のことでさすがに目が覚めたわ。あの人は私のことを愛してるんじゃない、自分の思い通りになるおとなしくてかわいいお人形さんがほしいだけ。もううんざり」 「そうしなよ、咲希だったらもっといい人いるって」 「いくらお金持っててもさ、あの人は心がないの。オズの魔法使いでいうなら心がないブリキ。きっとこの先もあの人との溝は埋まらない。このやらせろ事件であの人の本質がわかった。なんでも思い通りになると思ってるのよ、あの人は。仕事も恋愛も。でも私はあの人の思い通りになんかならない。ざまあみろだ!」 「そうだそうだ!」 「それで、彼氏には言ったの?別れるって」 忍は心配そうに尋ねた。 「言った、というかメールで伝えた。あの人電話嫌いだから。そのあとすぐにブロックして着拒してる。あの人プライド高いから、すぐには現実を受け入れないだろうけど」 「でもお店に来られたらどうするの?」 さとこも心配している。 「周りの人達にも事情は説明してるから、何かあったら助けてもらえるから大丈夫」 「それならいいけど…もしストーカーされたりしたら怖いし、いざとなったらしばらくうちに来てくれてもいいからね」 「ありがとう、忍。でもさすがに親御さんにご迷惑かけてもいけないし。それにあの人そんな執着心ないと思うから、すぐ他の子見つけて乗り換えるでしょ」 ピンポーン… そんな話をしていると、部屋のチャイムがなった。 「あ、注文したピザ来たかな」 インターホンを確認すると、そこに映っていたのは柴田だった。 「えっ!? うそっ??」 「どしたの!?」 友人ふたりが心配して画面をのぞきこむ。 「もしかして噂の彼氏!?」 「咲希、この前はほんとうにごめん!心から反省してる。別れるなんて嫌だ!ちゃんと話そう!お願いだから会ってきちんと話し合おう!」 無視してインターホンを切ろうとするが、大声で叫びかなりの近所迷惑だ。 「いい機会だから私達も立ち会うし、話つけたら」 さとこの提案に、忍も同調する。 「このままだと相手も納得しなさそうだし。ふたりだけで話すより、私達がいる時のほうがいいよ」 「…それもそうだね」 渋々解錠し、一階のオートロックが開くと同時に、エレベーターに乘って部屋までやってきた。 ガチャ 「よかった…出てくれて」 「ちょうど友達が来てるから、話し合いに立ち会ってくれるって」 いつものような笑顔もなく、咲希は冷たく言い放った。 完全に普段と立場は形勢逆転している。 部屋にあがると、柴田はリビングでいきなり土下座した。 「本当に悪かった!咲希の気持ちも考えずにあんなひどいことを…傷つけてしまったこと、心から謝りたい」 これにはさとこも忍も唖然。 ふたりは柴田と実際会うのは初めてだが、プライド高い男と聞いていたので、まさか自分達がいる前でこんなことをするとは思わなかった。 もちろん咲希も、信じられないという表情で柴田をみた。 「いくら酒が入っていたとはいえ、人として男として最低だった。オレは昔から人の心を踏みにじるようなことをやってしまうみたいで…。社長になってからは常に人より立場が上なので、誰も何も言ってくれなくなって天狗になってた。でも咲希が教えてくれた、そんな自分が間違ってるって」 ん? 「オレは咲希無しでは生きていけない。それくらい大切なんだ。お願いします!どうか許してください」 なんだろう この これまで見下されてきた人を見下すという 優越感。 土下座する彼氏を足げにするように、 腕組みして見下ろすのが こんなに気持ちいいなんて。 やばい 自分がこれほどドSだったとは。 咲希の中に、今まで感じたことのない感情が芽生えた。 人は所詮他人より優位に立ちたい生き物なのだ。 「お詫びと言っては何だけど、オレの謝罪と愛情が本気だということを証明するために、咲希の願いを叶えようと思う」 そう言うと、柴田はスーツのポケットから一枚の用紙を取り出した。 「いい物件を見つけたんだ。ここで飲食店をやらないか?」 「えっ?」 女子3人は、しげしげと物件の間取り図を見つめた。
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