第二十六話 新生活、新店オープン

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第二十六話 新生活、新店オープン

春間近の吉日、いよいよ咲希の小料理屋がオープン前、プレオープン日を迎えた。 2日間日程を組み、1日は咲希の知人、もう1日は柴田の関係者を招待してのレセプション。 もちろんさとこ、忍もお祝いに駆けつけた。 「おめでとう!咲希っ」 「ありがとう!」 店前には大きな開店祝いの花が届いた。名前にはちゃっかり『老後同盟』の名が。 「何これすごい笑うんだけどw」 「連名にするよりこっちのほうが手っ取り早かったから」 効率重視のさとこらしい発言だ。 「今度今の職場の人達も連れてくるね」 「忍ありがとう〜。ぜひぜひお待ちしてますっ」 他にはクラブで一緒に働いていた人達も集まり、女子ばかりなんとも華やかだ。 この日のメニューは季節の変わり目に健康に良い香草を使ったカレー風味のスープや、マロニーに明太マヨをあえたサラダ、里芋と銀杏の煮物など、どれもやさしくてほっこりする味。 お酒のつまみには自家製のぬか漬けやらっきょう、だし巻きやアジフライなど、素朴だけどどこか懐かしい味わいの一品が並ぶ。 「外食ばっかりだと、逆にこういう家庭的なものが食べたくなったりするのよね」 お世話になったママも大喜び。 「よかった、そう言ってもらえて。みんなお酒飲む機会多いので、カレーにはウコンやシジミエキスもブレンドしてるんですよ」 「こちらの仕事内容から体調を気にかけてもらえるのも嬉しいわ。相手を思いやる気配りは接客業において一番大事なことね」 「そうですね、それはママからしっかり教わりましたから。これからも大切にしていきます」 来てくれたお客様を家族のように大切にし、食を通じて幸福で満たすこと。 それが、咲希の目指す目標であり、商売するにあたり大切にしたいことだった。 和やかな女子会プレオープンと違い、柴田の招待客に対しては独特の緊張感があった。 それは事前に 「普段からお世話になってる得意先の社長とかも来るから、くれぐれもぬかりないようにね」 そんなプレッシャーがかけられたからだ。 ほんと余計なことばかり言う… 柴田と咲希、ふたりの関係はさらにギクシャクしていた。 ただしそう感じているのは彼女側だけで、彼氏側は鈍感過ぎて何も気付いていないのだが。 むしろ自分の知識を教えることができ、悦に入る始末。 良かれと思ってアドバイスしていることが、相手の負担になっているとはこれっぽっちも思っていない。 まぁ親身のアドバイスというより押し付けになっている時点でアウトですが。 メニューの相談をしても、 「みんないつもいいもんばっかり食べてるから、そんな一流料理人と張り合うことなく、咲希は自分らしい簡単なものでいいよ。そのほうが利益も出るし」 はい? 簡単なものっていっても、10人分不慣れな人間が作ると大変なんだから! 言われた通りほんとに簡単なもの出したら、絶対もっとがんばれとか言うくせに。 モンモンと悩んでいると、クラブのママに言われたことを思い出した。 『相手の仕事内容から体調を考慮してもらえると嬉しい』 そうだ 皆さんある程度年配の方々。 そして仕事でのストレスも多いだろう。 揚げ物は胃にもたれそうだから、却下。 胃に優しいキャベツを茹でて、お酒と合うソーセージを粒マスタードで合わせよう。 キャベツはキャベジン、天然の胃薬だもんね。 魚は骨があると食べにくいし、青魚は好き嫌いがありそう。 鳥肉を使った筑前煮と定番の枝豆、日頃から野菜不足だろうから、ブロッコリーやレタスをあえたポテトサラダにしよう。 冷奴は豆腐とかつお節をちょっと上質なものにしたらごちそうだし、切るだけだから手間も省ける。 締めの一品はたくさんは食べれないだろうから、ご飯よりは麺で。おそうめんなら麺を茹でておけば、具をのせて彩りきれいなぶっかけで。 よし!のってきたのってきたっ。 大体のメニューを決めて買い出しに。 業務スーパーに行くと、ピーマンやなすびが安かった。 「もう一品、これを煮浸しにしよう」 野菜を食べやすいヘルシーなおかずに。 働き盛りのお客様の健康をサポートしたい。 その気持ちで買い足し。 自宅で使っていた自転車を店舗まで乗ってきて、買い物用に使う日々。 それもこれも柴田が運転嫌いなのでしょうがない。 かといって運転免許を持っている咲希に車を貸すこともしない。 「ペーパードライバーに貸したら事故起こしたら大変だから」 おそらくその心配は、咲希の身の心配よりも自分の車を壊されたくないだけだろう。 嘆いていても仕方ない。 そういう人だと割り切り、夜に向けて準備に取り掛かる。 朝から下ごしらえをし、準備万端。 着替えも済ませ、来客を迎える身支度を整える。
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