第四十話 子供時代の話

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第四十話 子供時代の話

どうしたらあんなひねくれた人間になるのか、柴田の成長過程が気になるという話になったが、 ここで老後同盟3人それぞれの子ども時代を語ってみよう。 プロセスがあって、結果は生じるものだ。 さとこは裕福な、厳格な家庭で育った。 両親共働きだったこともあり、祖父母が健在の時それはそれは孫たちはかわいがられ、何不自由なく過ごしてきた。 家にはピアノやバイオリンがあり、小さな頃から英才教育を受けてきた。 大層なお嬢様で、門限も厳しく大事な箱入り娘だった。 大学進学時に家を出て寮生活をした時は、家族の目から逃れて初めて開放感を味わったらしい。 三姉妹で男性と関わることも少なく、世間知らずでつきあう男性がハズレばかりだった。 用心深く慎重に物事をすすめていく保守派No.1の性格は、大切に守り守られ続けてきた証拠なのかもしれない。 忍は前述の通り、不遇な子ども時代を過ごしてきた。 ひとりっ子ゆえ両親からは多くの愛情を注がれてきたことが、優しく思いやりある人格を形成したのだろう。 顔や見た目にコンプレックスを感じてはいるが、大人になるにつれ自分の殻を徐々に破り、自虐キャラで場を盛り上げる人気者になったたくましさは、本人しかわからない影ながら乗り越えてきたいくつもの壁や、苦しみと戦った証なのかもしれない。 つきあった男性はいないが、友達は多く信頼される。羨むこともあるが、周りの友人、特に老後同盟のふたりは自慢の親友と誇りに思っている。 咲希の子ども時代は、荒んだ家庭で育った。 父親はギャンブル依存症、母親は精神疾患を有し、警察沙汰になることもあった。 幼い頃、母親は咲希の目の前で自傷行為を行ったことがある。 多感な少女期に、愛する母親が自分をおいて死のうとしたことがショックで、自分の無力さを否応無しに感じた。 早く大人になりたい。 自分が母親を助けたい。 そう思って生きてきた。 子どもをもつことに懐疑的だったのは、母の姉も精神疾患があり、遺伝的なものだと自分の子どもも同じような病気で苦しむかもしれないと、怖れていたから。 常に両親の顔色を伺いながら成長したため、過剰なまでに周りに気を遣うようになった。 本音を言うこともためらうようになった。 年上の男性と恋に落ちあまえてしまうのは、父親にあまえられなかった反動なのかもしれない。 無意識に、父親の存在を追っている。 派手にパァーッと生きてきたのは、未来へ希望がもてないため、その場限りの楽しみを費やしていたから。 そして料理上手なのは、母親が寝込むことも多く、早々に家事を手伝っていたからに他ならない。 結構苦労人なのだ。 皆振り返れば、それぞれに抱えているものや、思い出したくない過去もあるものだ。 柴田も、実は誰にも話していない黒歴史があった。 それは、勉強だけしかできないいじめられっこだったこと。 しかも幼い頃はぜんそくがあり病気がちで、色白のおとなしい少年だった。 両親は曽祖父母の代からの地主で、事業で財を成す名家。長男跡取りの浩輝は後継者として大事に育てられた。 生まれ故郷は山奥の田舎なので、中学校から都会の全寮制の有名私立学校に行った。 表向きは名門だが、中では受験ストレス解消のためいじめや暴行事件が日常茶飯事だった。 おとなしい浩輝少年は格好の獲物となり、加えて家が金持ちのため、お金をたかられたり売店でパシリにされたり、ひどい目にあった。 メンツを気にする学校側は見て見ぬふり。 柴田の極度の人間不信は、この時期に培われたのだろう。 そして当時の悔しさ、こんなクソどもに負けたくないという強い想いで、今の成功がある。 大学卒業後一旦就職したが、自分より頭の悪い上司にこき使われるのをプライドが許さなかったらしく、自営の道を選んだ。最初は自分ひとりだった会社も従業員を抱える企業となり、社長として世間ではちやほやされる立場に。 けれど結婚生活はうまくいかず、子供もできるが離婚。 本人はひとりが楽と言いながらも彼女は取っ替え引っ替えしてきたが、咲希の美貌と才能にはゾッコンで執着している。 ここまで来たら、南井の子ども時代も語らないわけにはいかない。 本人も語っていたが、貧しい家に生まれ育った。 四人兄弟の末っ子で、父親は幼い頃病死。母親は父親の借金を抱え、女手一つで仕事をかけもちし切り盛りしていた。 育ち盛りの男の子、上の子たちに食事も奪われお腹を空かせるも、やせ細る母親に何も言えず我慢していた。 近所にお寺があり、暇さえあればそこへ遊びに行き、子どものいない住職さんにかわいがられ人の道、心の在りようを学ぶことができた。 その後奨学金で大学へ行き、政治家を志すために学んだ。 そんないろんな道をたどってきた人々が、出会い、集い、その道が交わった後、どんな風景になっていくのか。 答えは誰も知らない。 まだ見ぬ景色を知るために、人は生きていくだけ。
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