第六十五話 空気なんて見えないもの読む必要があるのか

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第六十五話 空気なんて見えないもの読む必要があるのか

日本人は空気を読むことを良しとする風潮がある。 いちいち言わなくても、先を読んで行動したり、 その場にあった行動ができること。 すなわち 『空気が読める』 ということが対人スキルで重要であり、一人前の社会人として必要だと暗黙の掟で考えられているのだ。 「空気を読んで行動しないといけない」 忍は子供の頃からそう考えていた。 私は出しゃばっちゃいけない。 目立っちゃいけない。 人生の脇役どころか、役割すらない存在。 そう思って生きてきたけど。 今まさに、自分が主役となる時がきた。 リーン  ゴーン…… 幸せの鐘が鳴る。 幸福な未来への扉が開く。 長い裾が広がる純白のウェディングドレス。 空気を読んで遠慮ばかりしてきたけど、 今はそんなこと考えなくていいんだ。 さぁ、前を向いていこう。 そこに、愛する人が待っているのだから。 父親の喪が明けてから、忍は松木と結婚式を挙げた。 「おめでとう!忍」 「お幸せに!」 親友達が祝福してくれる。 空気を読むなら、 私は思いっきり 幸せの余韻に浸っていいんだ。 今日だけは、私が主役だ。 「空気なんて見えないもの読めるわけがない」 忍の結婚式に出席する準備をしていると、たまたま家に来ていた親戚のおばちゃんに捕まったさとこ。 「あら、すてきなドレス」 「今度親友の結婚式があるんです」 「まぁ、いいわね〜。それより、自分のことはどうなの?再婚する気ないの?その気があるなら叔母さん、紹介するけど?」 きたきた 親切心の押し付け 「世の中、結婚してるほうが社会の信用も高いのよ?離婚した後再婚もできないとなると、何か問題ある人なんじゃないかって思われるわよ。もっと世間の空気を読まないと」 出た出た 空気を読め発言 「おばちゃん」 「ん?なぁに?再婚、する気になった?」 「空気なんて目に見えないもの、読めるわけないじゃないの、超能力者じゃあるまいし。私凡人なんだから」 ポカ~ン… 「あんまり腹立ったから、私思わずそう言っちゃったのよ」 忍の結婚式後の二次会で、さとこは咲希に話した。 「ぷっ、あっはっは〜。その返しおもしろいわぁ」 大爆笑 「空気読むことばかり考えてたら、疲れちゃうもの。どこに行っても、ちょっと空気読めない天然キャラ演じるくらいでいいのよ。結構そのほうが意外に愛されキャラとして慕われたりね」 知らないことも、気づかないほうがいいことも たくさんある。 下手に空気を読みすぎて、過敏に反応していたら身がもたない。 これから必要になるのは 空気を読むスキルより、 知らんぷりして聞き流せるスキル。 そのほうが、きっと楽に生きれる。 老後同盟の面々は、そう感じているのです。
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