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第七話 退屈な男
つまんないデート…
咲希は内心そう思いつつあった。
恋愛にマンネリはつきものだ。
つきあい始めはすべてが新鮮でも、大体2、3ヶ月もすれば相手のアラも見えてくるし、感性の違いというのもわかってくる。
咲希はただでさえ飽きっぽい女だ。
猫っぽい性格で気まぐれ。そこがまた男ゴゴロをくすぐるらしいが。
天性の魔性の女と言われる所以は、その自由奔放な掴みどころのないところが魅力なのだろう。
男は本能的に獲物を追いかけたいものだ。
退屈な男
今の彼氏の印象は、そんな不甲斐ないものに変わっていった。
元々自分から好きになったわけでなく、口説かれてつきあったという経緯も一因だが。
それでも前の彼氏もそんなつきあい始めが真剣に好きになれたのだから、もしかしたら今回もそうなれるかもしれない。
かすかにそんな希望は抱いていた。
退屈に思えるのは、デートがいつも同じパターンだから。
咲希が休みの夜に会いおいしいものを食べて、お酒を飲んで、セックスして帰る。
咲希にしてみれば、せっかくいい車を持ってるんだしドライブに行ったり、明るい太陽の下公園を散歩したり、映画を観に行ったりしたい。
ある意味多くのカップルがしているような、健全なデートを楽しみたいわけだ。
しかしこの男、運転嫌い、アウトドア嫌い、映画は鑑賞中仕事の連絡が来たら困るから無理。映画はDVDを自宅で観るか、配信版観たらいいという考え。
頭の中は常に仕事のことでいっぱい。
ベッドの中でもスマホのメールを確認するほど。
そんだけ仕事すればそりゃあお金は貯まるわよね…
咲希は正直呆れ気味だが、そんな時はあえて何も言わずシャワーに行ったりしている。
それをこの男はおめでたいことに、自分のことを理解し干渉せず見守っていてくれると勘違いし、なおさら咲希に惚れ込んでいく。
女ゴゴロの欠片もわからないなんて、どんなに頭良くて仕事できても男としての魅力はサッパリね。
内心小馬鹿にされているとは露知らず、会うたびにごきげんな彼氏を咲希は手のひらで転がしていた。
仕事柄愛想笑いは得意だ。
彼の言うことを否定せず、黙って3歩後ろをついていくような昭和な女に徹しているのだ。
ホステスをしていると、いろんなお客が来る。
常連になるくらいの男は、基本金持ちだ。
いくら金があっても、人間性が乏しい男が咲希は嫌いだ。
ホステスを物としか思ってない下衆な男や、他人を見下すような低俗な男。
地獄に堕ちろ
接客をしながら眉間のシワを隠しそう思っている。
そして咲希がそう念じた男どもは、その後ことごとく事業に失敗したり、大病をしたりと散々な目にあい店に来なくなる。
私超能力があるかも…
店のママには『咲希ちゃんの座敷わらしパワー』と呼ばれている。
「咲希ちゃんは福の神の招き猫だから、ずっとうちにいてよね!」
ありがたいことにそう言われ大事にされている。
彼氏からも
「咲希とつきあい始めてから仕事の業績が伸びてさ、お前はアゲマンだよ」
と喜ばれ、海外旅行に連れていってもらったりした。
退屈に感じながらこの彼氏とつきあっているのは、もはや旅行くらいが楽しみかもしれない。
お部屋はスイートルーム、国内旅行なら高級温泉旅館と、株主優待のところも多いため超VIP待遇。
いまだかつて経験したことのないリッチ感を味わえる時は、大きな刺激となった。
要は旅先ならいいけど日常がつまんない相手というわけだ。
どっちがいいんだろうね
旅行は時々だから、割合でいったら稀。
普段のデートのほうが頻度は多いから。
特別なごほうびのために退屈な日常に目をつぶれるか。
そこが、鍵。
誤解のないようにいっておくが、咲希は決して彼氏がなんでもしてくれて当たり前とは思っていない。
いくら年収1,000万以上稼いでいるとはいえ、デートのお金全額を常に出してもらうことに対し、感謝もしてるしありがたいと思っている。
とはいえつきあいたての頃、たまには自分も食事代くらい半分出そうか?と声をかけた時
「女性に財布を持たせないのがオレの流儀だ」
とキザなセリフを吐いたのはこの男だ。
それ以来、お言葉にあまえさせていただいているわけで。
咲希が飽き飽きなのは、毎回同じ流れのデートをしてエッチが終わったあと、
今日も良かったよね
楽しかったね
オレは今最高に幸せ、咲希もそうだろう?
と自分の気持ちを無視して自己満足に浸ってる彼氏に、そろそろドン引きなのです。
ひとまわりも年下の美しい恋人に夢中になっている、バツイチ金持ちの男。
彼女の本音に気づいてもおらず、この恋はどうなっていくのでしょうね。
彼氏は店のお客さんということもあり無下にもできず…フゥ。
咲希は時にため息がこぼれます。
本当はね、お金かけなくても
手作りのお弁当持ってピクニックしたりとか
エッチ抜きでも会える
高校生みたいな楽しいデートしたいの。
この人とじゃ無理かなぁ…。
彼氏の恋愛観は、大人の恋愛にセックスは不可欠だと思ってる。
それも一理あるかもしれないけれど、私はそれがすべてとは思っていない。
手を握ってハグするだけでも充分愛を感じるのよ。
あれ?
そう考えたら、あの人カラダだけが目当てなのかもしれない。
ホステスという仕事をしていると、軽い女と思われることもある。
咲希の中にはモヤモヤした気持ちが浮かびだした。
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