37人が本棚に入れています
本棚に追加
第一話 きっかけは同窓会
昔は結婚適齢期が20代なんて言われた時もあったらしいが、今では晩婚化がすすみ、加えて未婚率や離婚率の高さから少子化がすすみ、生涯出生率も下がっている。
この国の女性を取り巻く環境は大きく変わった。
ライフスタイルの選択肢が広がり、多種多様な生き方を選べる時代になっている。
そうは言っても!!
選びたくても選べない者達も大勢いるのだ。
高望みしていなくても正社員で採用されなかったり、結婚したくても相手が見つからないことだってある。
子どもがほしいと思っても、結婚相手すら見つからないのであればそれは夢のまた夢だ。
芸能人のように子どもだけ授かって育てたいと思っても、そんな経済力現実には厳しい。
そして年齢が40歳を過ぎれば、出産の可能性も低くなる。
身体的タイムリミットには残念ながら抗えない。
誰だって安定した暮らしをしていれば、将来の不安なんてそう持たずに安寧に生きていける。
極端な話、お金も暮らす場所もあれば、ひとりでも生きていけるのだ。
でもそんな人は極々一部だろう。
このままじゃいけない。
そう思った40歳の独身女子3人が、老後安心して暮らしていけるための助け合いプロジェクトを立ち上げた。
それが『老後同盟』です。
きっかけは高校の同窓会で、友人の結婚を知ったことでした。
「久しぶり〜っ」
この言葉が会場内で飛び交い、おたがいの近況を腹の中で探り合うのが、同窓会というイベントだ。
目がいくのは左手の薬指。
そして女性は名字が変わっているのかどうか、そんなチェックが始まる。
独身者にとっては、好きだった人が今どうしてるのか。相手も独身なら、この機会に恋が始まったり…なんてことも期待したりする。
高校卒業数年後の同窓会なら皆あまり変化はないが、さすがに20年以上も経つと見た目の変化も著しい。
男性は働き過ぎで日頃の不摂生がたたると中年太りや老け顔になり、女性は出産、子育てを経て体型も変化しやすい。
そんな中あまり変わらない印象なのは、わりと生活感のない自由気ままに過ごしている独身女性だったりする。
「わぉ!元気だった!?」
オレンジがかった派手な茶色の長い髪を巻き、アップにしてゴージャスな赤いワンピースを着た女。
メイクもバッチリで、ハイヒールをカツカツ鳴らしとにかく目立つ。
栗野咲希(くりのさき)。学生時代から派手で、性格も明るくお調子者。常に前に出るリーダータイプ。
長年水商売をしており、男を取っ替え引っ替え、恋愛にも自由奔放な美人。
「咲希!久しぶりっ。この前会ったのいつだっけ?」
返事をしたのは大崎さとこ(おおさきさとこ)。高校卒業後は大学で教員免許をとり、私学の小学校教師をしている。
年々生徒数も減る中、なかなか正規雇用にならず非常勤として働いている。
家族も皆教職員という勤勉な一家で、実家は元々三世代の大家族だったので、大きな一軒家に住むおっとりしたお嬢様。意外にも離婚歴あり。
「みんなで会ったのは去年の女子会が最後かな」
さとこの隣にいたのは竹内忍(たけうちしのぶ)。眼鏡と黒髪のおとなしめな外見で、性格も控えめでなんでも周りに合わせるほう。頭がよく事務系の資格を多く持ち、派遣社員としていろんな企業を渡り歩いている。
大学卒業後は正社員として就職を希望したが、自己アピールが苦手で不合格が続き、それ以来派遣として働き、現在も正規雇用を密かに目指している。
この3人はそれぞれ全くタイプが違うが、高校1年の時同じクラスになってから妙に気が合い、それ以来ずっと交友関係が続いている。
学生時代はこのグループにもうひとり仲間がいた。
大学卒業後海外に語学留学したのをきっかけに外資系企業に就職して日本にいることが少なく、しばらく疎遠になっていたその子も今日の同窓会には来るらしい。
「美夕に会えるなんて、うれしいね」
彼女の名は太田美夕(おおたみゆ)。スラッと背が高く色素の薄い茶色い瞳や髪色が特徴で、肌も白く外国に行ってもあまり違和感がない、きれいな子だ。
しばらく海外支店に赴任していたが、久しぶりに日本に帰国するとの情報が。
「あっ、来た!って、えっ…?」
「Hi ! ただいまみんな〜っ」
美夕の隣には、ハリウッド俳優ばりの超カッコいい白人男性が。…誰?
「紹介するわ、先月結婚したばかりの夫なの」
まるで雑誌のモデルのようなふたりの登場に、会場はざわめき、注目はラブラブなカップルに向けられた。
「美夕…結婚したんだ…」
さとこが落胆の表情を浮かべる。
「独身仲間が…またひとり減ってしまった…」
あぁ…祝いの席に本音が漏れる。
「あー、もうっ。せっかく目立とうとはりきってきたのに、全部持っていかれちゃったわ!」
咲希も憤慨している。それだけ注目欲求の高い性格なのだ。
こういう時忍は黙っている。基本、自分の気持ちというのを出さないのだ。
だから何を考えてるかわからなくて、時々咲希は失言をして失敗することもある。
結局、その日の同窓会はほぼ美夕の結婚祝いと化してしまい、3人は代わるがわるお祝いのことばを伝え、まぶしいくらいイケメンな旦那さんにクラクラするばかりで憔悴した。
「しばらくアメリカに住むから、ぜひ遊びに来てね♪」
ハートに包まれた幸せオーラの毒気にやられ、3人は早々に退散した。
「まいったぁ…離婚後の私にはあのハッピー全開モードは酷だわ。クッ」
さとこは半年前に、同じ教師の男性と離婚したばかりだった。わずか一年半の結婚生活だった。
自称恋愛マスターの咲希はよく相談にのっていたが、離婚の原因は相手の親との同居問題とか、女しかいない大崎家の跡取り問題とか、共働きするうえでの家事の分担や、子どもができなかったこと…多岐に及ぶようだった。
世間知らずで箱入り娘のさとこは恋愛経験も少なく、結婚してから知る事も多く、それも離婚に拍車をかけたらしい。彼女曰く
「あんな大変な思いをするくらいなら、出戻りと言われようと実家に戻りたい」
と感じたそうだ。
「まぁ人生長いんだし、結婚できたから離婚もしたわけで、貴重な経験できたと思えば。私達なんて結婚もしてないもんね!忍っ」
離婚後の女子会、さとこを励まそうとそんなことを言うと、忍に睨まれた。
「結婚どころか私なんて彼氏もいないのに」
忍は奥手で、加えて地味な自分の容姿にも自信がなく、誰かとつきあったという話を聞いたことがない。彼女の性格的に秘密にしているだけかもしれないが。
けれど休みの日もすぐにつかまるし、電話もつながるし、彼氏がいないというのは事実だと咲希はふんでいる。
40歳の独身女3人、ホテルのティールームで奮発したアフタヌーンティーを前に、ため息がひとつ、ふたつ、みっつ…。
フゥ、と漏れる。
最初のコメントを投稿しよう!