ヒーリングしか使えない魔法使いはお嫌いですか?

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旅に出て数日経った。 魔物は、今のところ全く出てこない。 嵐の前の静けさとは、このことか。 俺たちの町から数十キロ。 かなりの距離きたけれど、魔王の棲家もまだ見えない。 山に入れば、もう中々出られない。 「勇者様」 ルーリアが呼ぶ。 初日以降、ミーアさんに何かする様子も言っている様子もない。 「どうしました?」 「あの……他の町の勇者が倒してしまったんですかね?」 それはない。 それなら、報告が来るはずだ。 「まだ、そういう報せはないですからね。それはないと思いますよ」 「そう、ですよね」 どこかホッとした表情。 他の勇者が倒してないことを、安堵するなんて。 普通は逆なのにな。 おおかた、自分たちが倒したという見栄を張れると思っているのだろう。 「だからこそ、気は抜けません。警戒を怠らないようにしましょう」 そう、気は抜けない。 確かに、魔王を倒せば、とんでもない報奨金が出る。 だが、それはつまり、それだけ危険であるということ。 見栄を張れるなんて、そんな気持ちで戦いに臨めるほど、気安いものではない。 なぜ、それが分からないのか。 町長も、よくこんな能天気な女性を寄越したものだ。 「分かっています。勇者様」 本当かな? 「それより、勇者様。好きなひとはいますか?」 「え?」 なんだ? 「いないなら、私はどうですか?」 俺のこと好きだって、ナイトの言う通りだった。 はじめは、疑っていたけれど。 というか、やっぱり何もわかってない。 気持ちが悪い。 「俺、そういうこと考えられないので」 ウソだ。 本当のこと言ったら、彼女が標的にされる。 それが分かっているし、何より。 ルーリアに言う義理もない。 「そうですか」 ルーリアは、部屋を出て行った。 俺は、閉まっているカーテンを開けてみた。 寂れた町。 町人は見かけなかった。 不思議だったが、歩き疲れたため宿を探した。 見つけたのは小さな宿。 ベッドに座る。 ただただ、歩き回るだけの毎日。 本当に魔王はいるのか。 俺が倒したモンスターは、たまたまいた生き残りではないのか。 だけど……、各町で勇者率いるパーティが乗り出したと聞く。 俺たちだけではない、ということが魔王の存在を知らしめている。 俺やナイトは、毎日鍛えているからいいけれど、女性にはキツイだろう。 ルーリアも……嫌な女ではあるけど、実は体力が削れているのかもしれない。 この長旅は精神的にも体力的にもプレッシャーがかかる。 溜息を吐いたその時。 風が吹いた。 生温かい風。 次いで、錆の匂いが鼻をつく。 右腕に感じる痛み。 かまいたちか? 「失礼します、アギルト様!」 部屋に飛び込んで来たのは、ナイトだった。 普段、ノックするのに珍しい。 「嫌な予感がして……お怪我されてるのですか?」 ミーア様を呼んでまいります!
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