ヒーリングしか使えない魔法使いはお嫌いですか?

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声がする。 優しい、愛おしい声。 ミーア・コルトウェッソン。 俺のために、治療をしてくれる。 懐かしい。 『アギルト様!また木に登って……怪我いたしますよ』 幼少の俺はヤンチャで、勉強が嫌いだった。 本を読むより、体を動かすことが好きだった。 あの頃は、まだナイトは俺のそばにはいなくて、世界を飛び回る母について回っていた。 俺のそばには、初老の執事。 勉強をすることをすすめて、体を動かす俺には渋い表情をする。 頭脳タイプの男性だった。 がっしりしたタイプではなく、どちらかと言えば細くて力はそんなにない。 『大丈夫だよ。体力つけないと、父さんみたいになれないから』 俺の父もまた、勇者だった。 戦で、死んでしまったけれど。 とても強く、気高く、それでいて温厚なひとだった。 そんな父に憧れて、いつか勇者になることを夢見ていた。 体力をつければ、なれるのだと。 その時の俺は、信じて疑わなかった。 『あ』 『アギルト様っ!』 だけど、俺は分かってなかった。 なんにも、分かってなかった。 高く登った木。 俺は、手を滑らせて落下した。 落ちる時、体感はゆっくりなんだと知った。 だけど、実際はかなり速いスピードで落ちていく。 執事が細腕を伸ばしている。 それが、俺が見たさいごの景色だった。
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