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嫌な予感がする。
咄嗟に、アギルト様を庇う。
ごめんなさい、アギルト様。
抱きしめた体は、温かい。
途端、風が吹いた。
「きゃあ!」
私の体が、切られた。
でも、気にする余裕はない。
ヒーリング、と呟く。
彼の左手の傷が治った。
もう少し……!
「ヒーリング……!」
《がんばるなあ。ミーア・コルトウェッソン。だけど、アギルト・タッベレは治るかなぁ?》
何で私たちの名前を……!
だけど、聞いたことがある。
この声は……、宿屋の主人!
《あの小賢しいナイト・ルワサーも、ルーリア・パイソンスミスも眠ってもらったよ。君は攻撃魔法が使えないからねえ。頼みの勇者サマもこの有り様だ》
私が攻撃出来ないから、攻撃の要であるアギルト様を……。
そして、ナイト様も、ルーミアも……。
《我の手にかかるなんてなあ。大したことない勇者サマだ》
せっかく目覚めたのに、味気ない。
「あなたは、魔王だったのね」
《今頃気づくとは……やれやれ》
「アギルト様」
《呼んでも無駄だ》
治したはずの傷口から、血液が溢れ出す。
「そん、な……」
《残念だったなあ。……なあ、ミーア・コルトウェッソン。お前の回復能力は我に必要だ》
「アギルト様を治せないのに?何を言っているの」
《知っているぞ。お前は、すごく強い回復魔法を使えると。それがあれば……》
「……残念ね。私は、アギルト様を慕っているわ。絶対に、あなたの誘いには乗らない」
《ほう。その頑固なところ故に、お前は死ぬのだ》
面白い、と言って。
魔王は、また攻撃を仕掛けてきた。
切られたところが、熱い。痛い。
泣き出してしまいたくなる。
だけど、負けられない。
「エクストラ・ヒーリング!!」
お母さん、おばあちゃん。
ごめん。
私は、約束を破ってしまいます。
一回。
エクストラ・ヒーリング!!
二回。
視界がぼやける。
息が、うまく出来ない。
だけど、私は……やらなきゃ。
エクストラ・ヒーリングが効かないのなら。
エクストラ・ヒーリング・マックス!!!!!!
回復魔法の最大級。
エクストラ・ヒーリングよりも三倍の力。
離れた場所にいても、同じ家屋にいれば通用する。
そして、この魔法は回復だけじゃない。
本当は、使いたくなかったけれど。
私は、戦力になれないから。
熱い、熱い………
からだが、焼き尽くされてしまう感覚。
「ーーーファイヤ・バースト……!」
良かった、ルーリア。
ごめんなさい、みんな。
私は休憩させてもらいます。
身体が、動かない。
「ミーアさん」
アギルト様……
返事をしたいのに、声が出ない。
「…………」
呆れられてしまったよね。
《ミーア・コルトウェッソン……!お前何をした》
焦る声。
それは、私の魔法。
エクストラ・ヒーリング・マックスのせい。
少しの間金縛りにかけられる。
気休めかもしれないけど。
《くそぉ……!ルーリアめ……》
「ミーアさん!」
アギルト様。
どうかお気をつけて………
出血が止まって良かった……。
私は、意識を手放した。
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