ヒーリングしか使えない魔法使いはお嫌いですか?

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「ミーア。良かったわね」 ミーア・コルトウェッソン。 それが私の名前だ。 魔法使いの家系に生まれた私。 だけれど、家族と違って、私は戦闘魔法が使えない。 そんな私を、クラスのみんなは腫れ物扱いした。 それはそう。 戦闘パーティなのに、回復魔法しか使えない私は使い物にならないのだから。 そのため、ずっとパーティに呼ばれることはなかった。 私は、この町でゆっくりと過ごす。 そして、人生を終えるのだと思っていた。 『ミーア。あなたの魔法は、みんなを幸せにするんだよ』 そうなのかな。 ヒーリングしか使えないのに。 だけど、大人になって、私の魔法を求めて傷ついた人が集まってくる。 包丁で切ってしまった、とか。 転んで怪我をした、とか。 そんな軽めの傷。 それでも、役に立てることは嬉しかった。 『ありがとう、ミーア』 感謝されるのは、すこし恥ずかしいけれど。 『治って良かったですね』 私は、笑顔で返す。 『ミーアの力は、いつか勇者様の役に立つ時が来るよ』 おばあちゃんは、そう言って私の頭を撫でてくれた。 アギルト・タッベレ。 それが、この小さな町で生まれたヒーローの名前だ。 数年前に、この町から数十キロ離れた山奥で封印されていた魔王が蘇ったと噂になった。 それ以降、各地で魔王の手下が暴れていると。 離れているこの町も、例外ではなく。 小さな姿形だけれど、村人を襲うモンスターが現れた。 その時に、颯爽とモンスターを倒したのがアギルト様だった。 その後しばらくは、この町にもモンスターが現れていたけれど、その度にアギルト様が果敢に倒して行った。 町の女性は、アギルト様に夢中になった。 身長は174センチ、すらりと長い手足。 目鼻立ちがハッキリして、常に乾燥を知らないくちびる。 ツンツンとした金髪に、甘く低い声音。 モンスターと対峙した時に見せる眼光の鋭さ。 町の人と話すときの、優しい笑顔。 そのルックスだけでも夢中になるに申し分ないのに、性格は穏やかで物腰が柔らかい。 それなのに、戦闘となると秘めたる強さを見せつける。 まさに、勇者というよりも王子様だ。 かく言う私も、アギルト様に淡い恋心を抱いている。 だけれど、私はどこにでもいる、いち町民に過ぎない。 顔が特別美人というわけでもなく、学が優れているわけでもない。 戦闘も出来ない。 こんな私に、振り向いてくれる訳がない。 そう、諦めていた恋だった。 それなのに……。 まさか、私がパーティの仲間に任命されるだなんて。
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