ヒーリングしか使えない魔法使いはお嫌いですか?

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旅立ちまであと少しか。 俺は、窓辺に立ち外を眺める。 彼女の他に、もう一人魔法使いを連れていくことになってしまうなんて。 星が煌めく。 『アギルト様、ミーア・コルトウェッソンの他にもう一人魔法使いを連れて行ってください』 『なんでです?町長』 『ミーアは回復魔法しか使えませんし、勇者様に何かあったら……』 『町長。彼女はスペシャリストですよ』 魔法使いは一人でいい。 まして……この人とは。 考えこむ俺に、町長が不思議そうに聞く。 『勇者様。何でそんなに、ミーアに拘るんです?』 『………色々と、あるんですよ』 淡い記憶が。 黙り込む俺に、町長が声をかける。 『勇者様……?』 『いえ、何でもありません。それより、なぜこの人を?攻撃専門の魔法使いなら他にもいますよね?』 『攻撃魔法については、右に出る者がいないと噂されています。きっとお役に立つかと』 どうやら、彼は知らないようだ。 このルーリア・パイソンスミスが彼女をいじめていた本人だと。 噂、ね。 つまり、本当かどうかは分からないということ。 『分かりました』 俺は町長に笑いかける。 ミーアさんに何かするなら、即刻パーティを抜けてもらうだけだ。 そう、心に決めた。 『あと、俺の忠実な部下をひとり連れて行きますね』 『はい、もちろんです。ですが、四人で大丈夫ですか?』 『大丈夫ですよ。ありがとうございます』 大丈夫。 そう、思っていたけれど。 あと数日に迫って、俺は少し落ち着かない。 「アギルト様」 いつのまにか傍にいた、おれの部下。 ナイト・ルワサー。 幼少の頃から、俺のSPも努めている。 身の回りの世話も。 文武両道、大柄で刈り上げた髪。 鋭い眼光の持ち主だ。 俺に、剣術と拳銃の使い方含めて戦術を教えてくれたのも、ナイトだった。 「どうした?ナイト」 「もう少しですね。ミーア様とアギルト様は、必ずわたくしが護りますのでご安心ください」 「ああ、ありがとう。だけど、ミーアさんは俺が護りたいな」 「ご無理なさらぬよう。……紅茶をお持ちいたしました。リラックス効果がございます。宜しければ」 「ありがとうな、ナイト」 「いいえ。……おや、星が綺麗ですね。出発日も晴れたらいいですが」 「相変わらずロマンチックだな」 それは、俺もだ。 二人で、星空を見る。 「アギルト様」 「ん?」 「あの女性……ルーリア・パイソンスミスですが、実は……」 ナイトからの報告を受けて、俺は頷いた。 「ナイト」 「はい」 「明日朝からまた稽古をつけてくれ」 「かしこまりました。では、アギルト様。そろそろお休みください。明日に触ります」 「ああ。ナイト、本当にありがとう」 本当に、俺は最高の部下に恵まれた。 色々考えることはあるけれど、今日は寝よう。 「おやすみ、ナイト」 「おやすみなさいませ。アギルト様」 静かに、ドアが閉まる。 静寂が戻ってきた。 だけれど、さっきよりも心おだやかだった。
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