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「ミーア」
「はい。お母さん」
「本を読んでいるの?」
「ええ。……今日がこうしていられる最後の日だもの。足掻きだけれど、まだ、もう少し知識をつけたくて」
お母さんと、こうやって話ができるのも最後。
わたしは、生きて帰ってこれるのかしら。
「……不安?」
「少し。だけれど、アギルト様の為に頑張れるチャンスだもの」
「……あなたは、あなたなのよ。自分も大切にしてね」
見透かされているなぁ。
「お母さん、ありがとう」
「いいえ。必ず、帰ってくるのよ」
確約は出来ない。
だけど、そうなればいい。
帰ってこれたらいい。
私は、曖昧に笑った。
お母さんは、少し苦しそうに笑い返してくる。
ごめんね、お母さん。
「……ミーア」
「なあに?」
「危なくなったら、逃げなさい」
お母さん。
心配してくれてるんだね。
でも、それは出来ないよ。
「心に、留めておくね」
「ミーア……あなたは、頑張り屋さん。それは、わかっているのよ。だけどね、あなたが帰って来なかったら……悲しむひとがいるの。それは、分かってね」
「うん」
分かってるよ。
だけどね、お母さん。
私は頑固なの。
アギルト様が、私を選んでくれた。
だったら、退けない。
私は、逃げない。
「お母さん、今日は一緒に寝てもいい?」
「………もちろん、よ」
泣きそうなかおで、お母さんは同意した。
一人用のベッドだから、狭いけれど。
私には、この狭さが愛おしく感じた。
「おやすみなさい、ミーア」
「おやすみなさい、お母さん」
産んでくれてありがとう。
呟くと、お母さんは静かに泣いた。
切ない気持ちになる。
私も、数分涙を零した。
夜の静けさが、物悲しく感じる。
明日、私はこの家を出る。
誇らしくて、少しだけ苦しい。
いつもは綺麗な月明かり。
今日は、目に眩しく感じた。
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