ヒーリングしか使えない魔法使いはお嫌いですか?

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「いってらっしゃい」 そう言ったお母さんは、涙を堪えて笑った。 「行ってきます」 私は今日、戦地に赴く。 今までの弱い私に決別する。 優しいお母さんとおばあちゃんに挨拶。 「くれぐれも気をつけてね!!!」 「うん」 手を振り、私は歩き出した。 後ろで、お母さんとおばあちゃんが私の名前を呼んでいる。 振り返らずに、私は歩いていく。 振り向いたら、きっと。 私は家に帰りたくなるから。 弱くはない、私は。 大丈夫、きっと。 きっと、また帰ってくるからね。 家から数メートル。 私は、涙を拭う。 いけない、泣いてはいけない。 前を向いて、しっかり歩かなきゃ。 待ち合わせ場所は、教会。 小さな教会だけれど、私は休日ここで過ごしていた。 みんなで祈りを捧げて、静かに過ごす。 あたたかい空間。 優しい空間。 私の気持ちもあたたかくなる。 そんな、私の大好きな場所。 入り口につく。 まだ、誰もいない。 私は、ゆっくり歩いて戸に手をかける。 ギィ、と軋む扉。 ステンドガラスから差し込む陽の光。 今日も何も変わらず、そこにある。 一歩一歩、踏みしめて歩く。 教会の真ん中、私は座り込む。 美しいマリア、大きな十字架。 「かみさま。どうか、無事に帰って来れますように」 お護りください。 「………早いですね」
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