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スキル『盤上の目』を発動させる。地形はマス目状に仕切られて見えない位置のユニットにも赤色が灯った。敵の数は──。
「10人ほどだな」
聞こえないように小さい声で人数を伝えると、エミリアは口を押さえながらも驚きの声を上げた。
「そんなに? 倒せないよ!」
緩やかな坂の一本道だ。前に進めば鉢合わせしてすぐさま戦闘に入る。それに魔法か弓矢か遠距離攻撃を持つユニットが半数を占めているため、アレンたちの姿がバレたところで一斉に攻撃を浴びる可能性もあった。10人もいれば不意打ちもまるで意味をなさない。
「攻撃範囲が通常よりも広い」
「……どういうこと?」
「坂になっているからだろう。坂上から坂下へは矢がよく飛ぶ。もっともこちらに遠距離攻撃に対応するすべはないが」
「はっ?」
(闘技場以外で使うのは初めてだが、本当にゲームのようなスキルだな。高低差による攻撃範囲の変更とか……緑色のユニットといい。だからこそ、シミュレーションゲームのようにしっかりと戦力がいなければ勝てない仕様になっているが)
「ど、どうするのよ?」
アレンは上目遣いのエミリアの顔を見て微笑んだ。
「俺のスキル、エミリア──あんたが使うんじゃなかったのか?」
「それは……! もっと大きい話っていうか、方向性の問題というか……実際の戦いで使えるわけないじゃない!」
「わかってるよ。冗談はさておき、とにかく切り抜けるしかなさそうだ」
エミリアは細長い首を傾げた。
「今のが冗談……?」
呟きはアレンの耳には入っていなかった。
(さて、どうするか……)
ちらっと見た限りでは敵は甲冑で身を固めた戦闘経験豊富なギルド員。丁寧にフルフェイスで顔まで覆っており、アレンのナイフ一本ではまずもって太刀打ちできそうもなかった。エミリアも武器はなく今の時点では戦力になり得ない。
アレンの瞳に濃赤のユニットが映っている。直接姿は見えないが、この戦いにおけるボスユニット。おそらくはギルド員を束ねる隊長のような存在だろう。
(完全に張っている。いや、それもそうか)
集団はどこかへ行く様子がなかった。ウロウロと動き回っているが、道を塞いでおり往来する通行人を見逃さないようにしている。つまりは検問だった。
「あ〜暇っすね〜本当にまだこの辺りにいるんですか?」
呑気な会話が聞こえてきた。退屈したギルド員が雑談を始めているのだろう。
「街の方に逃げた情報はないからね。着の身着のまま逃げたんだから、普通はブラックマーケットに潜り込むでしょ?」
「うわっ」と小さく声を発したのはエミリアだ。
「私たちの行動、完全に読まれてるわね」
アレンは頷くと観察を続ける。闘技場の方が無秩序ではあるがまだルールはあった。一歩外に出るともうそこはルール無用の世界。少数の弱者は大多数の強者によって簡単に追い込まれてしまう。
「でも、他に行く当てないんだもの。ブラックマーケットに行けば少しの間でも匿ってくれると思ったんだけど……」
「……待て。ブラックマーケットはもう近くなのか?」
「え? うん、ここを抜けて坂道を真っ直ぐ進めば見えてくる、と思うんだけど。私、そこで捕まって闘技場まで連れてこられたから」
アレンは真夏の太陽に向かって顔を上げた。眩しさに眉をひそませながらもスキルの範囲をさらに拡大する。色のついていない大勢のユニットが距離にして1、2キロ先にひしめき合っていた。中にはギルド員と思われる赤色のユニットも点在しているが。
(なるほど、マーケットの近くまでは来ていたわけだ。──と、すると)
「これは完全に賭けだが、やってくれるか?」
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