スパイ掃討計画

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 修道院を通り孤児院の寮へと出ると、図書室の前にアレンとモニカの姿を見つけた。途端にエミリアの顔は強張り、心の内を隠すように胸の前で腕を組んだ。 「……あっ、エミリア様──」 「新聞記者じゃないの? あちこち嗅ぎ回っているのかと思ったけど」 「あっ……えっと……」  先に声を掛けたモニカを無視する形になってしまったことをエミリアは気づいていなかった。エミリアの視界には気怠そうに息を吐くアレンの顔しか映っていない。  アレンがモニカを庇うように前に出ると、そのまま目の前まで近づいてくる。何事かと思って身体を強張らせると何冊か手に持っていた本の中の一冊で軽くとはいえ頭をはたかれた。 「いった! 何するの!?」 「何するの──はエミリアの方だろ。人の挨拶を無視するな」 「無視? えっ?」  慌ててモニカの方へ顔を向けると、はっと口を開いたモニカは焦ったように手を振った。 「全然、気になさらず! わ、私が悪いんです……いつも孤児院のみんなから、いつの間に来たの、とか言われちゃいますし……」 「いや、そんなことっ! 本当にごめんなさい!」  モニカへ走り寄ると、エミリアは頭を下げた。 「……あ、あの、その……どうか顔を上げてください……私、そんな……」 「いやいやいや、私が悪いから」 「あの……そう言われましても……その……」 「あっ……ご、ごめんね」  変な沈黙が生まれ、エミリアは顔を上げるとアレンの本に目を留めた。 「音楽の本ばかり、何に使うの?」  話題を変えるための質問だった。どうにもモニカ相手だとどう接したらいいのかわからなくなる。特にアレンと一緒のときはなおさら。  別にそうしたくなくても突っかかってしまう自分がいた。 「ああ」  アレンは本の表紙に視線を落とすと、深い赤色の表紙を手の甲で撫でた。 「モニカとの関係でちょっと気になることがあっただけだ」 (気になること? モニカとの関係──)  胸がチクリと痛んだ。 「何よ、何か隠すようなやましいことなの?」 (私、また──)  そんなつもりはないのに口から刺々しい言葉が出てしまう。飛び出してしまうと言った方がいいかもしれない。  アレンは、なんだ、と言わんばかりに眉をひそめると後ろにいるモニカに目配せをしてため息を吐いた。  2人の様子を見て、エミリアは気づかれぬように右手をきゅっと握った。 「聖歌隊」 「聖歌隊?」 「あるだろ? 修道院に。歌が好きなシスターや子どもたちで構成する合唱団。モニカはそれが好きなんだ。この本はそれに関係するものばかりだ」 「そうなのね。だったら最初からそう言えばよかったじゃない」  エミリアはまた腕を組んでそっぽを向く。その肩をそっとカルメンが触れた。 「──確かにモニカはよく聖歌隊の合唱を聞いている。それにアレクサンドリア聖歌隊は、街の合唱団でも1、2を争う名合唱団だ。アレンはそのことを記事にしようとしているのか?」 「それもある。とにかく駆け出しの新聞記者は、どんな記事でも書かなきゃいけない。あとは、単に興味本位だ」 「どんな仕事であれ勉強熱心なことはいいことだ──と来たようだな」  エミリアが振り返ると、カルメンの視線の先にちょうどクラーラが歩いてきているところだった。 「すみません、遅れて。カルメンも悪いね」 「いや、問題ない。ただ、初任務の話は私には関係ないだろう? このまま席を外させてもらおうか」 「カルメン、実はあなたにもぜひ協力してほしいことなの。……ちょっとここじゃ話せないから、そうねそこの図書室の中で話しましょうか」
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