秩序ある乱闘

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(秩序を変える。それしか生き延びる手段はない)  ヴィポが強いのは、その腕力でも体格でもない。人間の見た目でありながらまるで金属を相手にしているかのような異常なまでの頑丈さだ。ヴィポのその特質は、人間とゴーレムのハーフという特殊な出で立ちが関係していた。  基本、ヴィポにはどんな攻撃も効かない。(やいば)は通らず、魔法も無傷、ドラゴンのブレスだろうと表面が焦げるだけで済む。 (だけど、さすがに目は別だろう)  んぎゃあああああああ、と醜い叫び声が上がった。地面に足をついたアレンのナイフはぬらぬらと真っ赤な血が光に反射して光っていた。  観客のどよめきが聞こえる。次の瞬間にはわっと歓声に変わった。  呆気にとられているのか、他のユニットは一人を除いて動けないでいた。皆、実力で言えばアレンよりも何倍も上だが、それゆえに予想外の人間が予想外の行動を取ったことで反応処理が遅れているのかもしれない。 「貴様、貴様ぁ!!!!!!」  ヴィポが動き出す。まだ痛むのだろう抉り取られた目を片手で抑えながら、石床を震わせて前進してくる。 「マズイぞ! ヴィポの奴……!」「あの小僧、なんてことしてくれたんだ!!」  同時に動き出したユニット達は、危険を察知したのかすぐさま互いに距離を取った。見えていないが、アレンは各ユニットの移動範囲がどんどん離れている映像を想像した。 「貴様! このクソガキが!! 情けで生きてるようなお前が、この俺に何をした!!」 (クソガキ……ではない。一応、37+18歳だからな。精神年齢は)  アレンは何も言わない。ヴィポの足元をただただ見ていた。 「お前ッ! アレン! 今さら怖気付いても遅いぞ! お前は俺に攻撃したんだ!! 万死に値する!! 死ね!!!!」 (死ね、とは最上級の人格否定だな。あまりにも直接的すぎて下品に聞こえるが)  ヴィポの拳が風圧とともに迫る。人の頭を簡単に破裂させることのできる拳だ。まともに食らえば一撃で人生が終了する。まともに食らえば。  青いユニットがアレンの視界に入った。恐れも慄きもせずに顔を上げると、老コボルトが眼前に現れ、ヴィポの拳をメイスで止めていた。 「なっ……」「えっ……?」  またも会場に動揺が走る。アレンはその状況を目で見て肌で感じ、口の端をほんの少しだけ上げた。 「アレンは殺させないぞ、ヴィポ」  老犬コボルト──グリング・ブラウンフロアは拳を弾くと、魔法を詠唱した。 「大地の鎧(ストーン・ウォール)」  グリングの前に反り立つ石の壁が出現した。
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