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燃え盛る炎はドラゴンのブレスだった。ヴィポの攻撃が簡単には届かない上空から炎の塊を吐き出している。続き、炎の渦の中に何重もの木の矢が飛び込んでいった。飛んできた方向を見れば、離れた空中からホークマンが翼を大きく揺らしながら弓を携えていた。
「ぐっ、く……貴様らぁ……」
2人のユニットの攻撃が合図したように、まだ立っていられる強者が一斉にヴィポへと攻撃を始める。魔法が放たれ、斬撃が飛び交う。一つ一つの攻撃は微力でも、同時に攻撃することで徐々に硬い皮膚は破れ、貫通しダメージが蓄積されていく。
闘技場での戦いは目立つことが全てだ。目立てば目立つほど、観客の注目は集まり掛け金が跳ね上がる。名前を呼ばれ賞賛を浴び、戦いの主役に躍り出る。
会場の熱に浮かされるように、奴隷たちはヴィポへの攻撃を続ける。その引き金を引いたアレンは、密かにほくそ笑むとまた目立たぬように熱い石床の上にしゃがみ込んだ。
アレンはちらりと観客席を見た。銅鑼を鳴らす闘技場側の人間が床に置いていた撥を手にした。
(もうすぐ時間だ)
アレンにはわかっていた。自分のような弱者がヴィポに傷をつければ激昂することを。たとえ全員で攻撃してもヴィポは倒せないということを。
(だからこれは時間稼ぎ。今回のショーのハイライトは終わった。間もなく銅鑼が鳴り、試合は終了する)
ヴィポが獣のように吠えた。ユニットを掴んでは投げてを繰り返し、アレンの元へと接近してくる。
(逃げるか──っつ、なんだ!?)
ギリギリで距離を置くために移動範囲を確認したアレンの目に不可解な情報が追加された。
観客席に緑色のユニットが現れた。
(赤色は敵、味方は青。でも、緑色なんて見たことがない)
隙を見せたら負ける。戦いの鉄則だ。一瞬、注意が削がれたことでアレンはヴィポの接近を許してしまった。
ヴィポの移動範囲にアレンが入り、攻撃が避けられない距離に侵入される。岩石のように硬い拳がアレンの顔目掛けて伸びてくる。
一撃目は躱せた。二撃目で尻餅をつき、ヴィポは目の前で両手を握り合わせて上から叩きつけた。風が巻き起こり、黒髪で隠れていたアレンの額が露わになる。
死を覚悟したときだった。青色のユニットがアレンの視界に入り、細い身体を突き飛ばした。
真横で肉が抉られる音がした。
(そんな──なぜ)
アレンに命中するはずだったヴィポの拳は、唯一の味方ユニット、コボルトのグリングの胸を貫通していた。
一層の盛り上がりを見せる観客の声を突き破り、銅鑼の音が鳴り響いた。
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