波乱含みの盤面

2/5

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
 闘技場の外にはアレンがまだ見たことのない街並みが広がっている。街を二分する大通りの西側にはギルドセンターや教会、王宮の他、浴場や商店、魔法店、食堂に倉庫など商店街が、東側には住宅街が設置されている。闘技場は住宅街のさらに東奥、スラムの中にひっそりと造られていた。奴隷の多くはスラムの出身だ。戦争に敗れた種族や民族が身を寄せて生活している。日の当たる住宅街や商店街に住んでいたのに、何かをきっかけに落ちぶれて流れ着いてくるものもある。アレンは奴隷階級出身で、両親は僅かなお金のために幼いアレンを闘技場に売った。 (あの子もそんな理由なのだろうか? それにしても店主が言うように奴隷とは言えないほど品格があったが)  貴族だとしても落ちぶれて娘を娼館に売り飛ばすなんてことは聞かない話じゃない。だが、闘技場なんて──。  アレンは頭を横に振った。せっかく亡くなったグリングから譲り受けた本『アンフィテアトルムの地理』を読んでいるのに全く頭に入っていない。ともすれば、本の記述からすぐに金髪碧眼の少女のことを連想してしまう。見た目的には同じくらいだが、少女、とそう言ってもいいだろう。実年齢が違い過ぎる。  予想外に住宅区の中は静かだった。アレンはすぐにでも悲鳴が上がるものだと覚悟していたものだが、時々聞こえる雑談と足音くらいで少女の声は聞こえなかった。 (わざわざ闘技場に来るくらいだから何か取り決めがあるのかもしれない) 「ああ──くそっ」  アレンは本を枕元に置くと、夜闇を照らしていたランプの赤い灯りを消して眠りにつくことにした。 (グリング。何があろうとも生き逃げる。……それだけでいいはずだよな?)  微睡みの中で少女の瞳が思い出される。力強い輝くような瞳にアレンの意識はぼんやりと過去を遡っていた。生まれるよりも遥か遠い過去。その記憶の中の少女も同じ強い意志の宿る目をしていた。アレンは、なかなか眠れず何度も寝返りを繰り返していた。 * 「──そういうことか」  次の日、再び戦場に招集されたアレンは少女が乱暴されなかった理由を知った。鮮やかな金髪の少女一人を、下品な笑みを浮かべた男達がぐるりと扇状に囲む。満席の観客もこれから何が行われるのかを知っていつもとは色の違う声援を送っている。そして、そのことを知っているであろう咲いたばかりの花のような少女は、固い表情で使い慣れていないであろう長剣を両手で握り締めていた。  銅鑼が鳴り、戦いが始まる。スキルを発動させたアレンの瞳には、全ユニットが赤色を纏っていた。 (こんなの戦いなんかじゃねぇだろ。一方的な(なぶ)り殺しだ)
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加