追われる者

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「教えなさい。どんなスキルなのか。どうやって助かったのか。じゃないとこのまま首絞めるから」  そのまま首に上がってきた手を取ると、アレンは簡単にエミリアの手を捻りその顔を歪ませた。 「いった! 何すんのよ!」  手をぱっと離すと微笑む。 「非力な俺よりもさらに力がないくせに首を絞められるわけないだろ」  スキルがなければ全く弱いながらも10年以上は戦ってきたのだ。 「でも、聞かなそうだから話してやるよ。言っておくがスキルについて話すのはエミリアが初めてだ。お前が信頼できると思って話す。絶対に漏らすなよ」 「も、もちろんよ」  なぜか座って姿勢を正すエミリアに「寝ろ」と言って、アレンは『盤上の目』について説明した。どういう経緯で身につけたのか、何ができるのか、どう生き逃げてきたのか、ついでに過去世についても。  一度息をつく。夜はさらに深まりより一層静寂に包まれる。エミリアはアレンが話をしている最中もじっとアレンの瞳を見つめていた。 「それで、どうやって闘技場を脱出できたの?」 「そのことについてなんだが、不明な点がある。観客席に緑色のユニットが現れたんだ」 「緑色のユニット? でも、ユニットは青色が味方で赤色が敵なんじゃ……」 「そうだ。だが、緑色のユニットが現れた。そして、そのユニットはエミリアに唇を近づけたときに青色に変わった。つまり、突然味方になったということだ」  エミリアは暗闇でもわかるくらい顔を赤く染めると、また乱暴にアレンの胸元を掴み頭を激しく揺らした。 「つまり、じゃないわよ! 忘れなさいそんな記憶!」 「揺らすな。事実なんだから仕方ないだろ」 「私にとっては消したい記憶よ! あれがアレンだったからまだよかったけど! 反吐が出るくらい気持ち悪いわ!」 「確かにそうだ。が、事実は消せない。もう思い出させないから落ち着いてほしい。今、問題なのはその観客席のユニットが氷の魔法を起こしたということだ。あれはそう──リージョン魔法を」 「……観客が? ……どうして?」  緩んだエミリアの手を離す。エミリアの目線は考え込むように暗闇の虚空を泳いでいた。 「俺達を助けようとしたことは間違いない。ただの憶測だが、緑色のユニットは敵にも味方にも属さない中立のユニット。それが青色に変わったんだ。試合中の何かをきっかけとして助けようと思ったんだろう。その理由まではわからないが」 (ヴィポの片目を潰したあのときも、観客席には緑色のユニットがいた。もしかすると──) 「どうしたの怖い顔して? 何かあるんだったら言っておいた方がいいわよ。私はこれからアレンの力を使うんだから、もし隠し事をしていたら許さない」  エミリアの口端が上がり、悪戯っぽい笑顔を見せた。アレンは思わずエミリアの脳天に空手チョップを喰らわせる。 「痛った!! 急に何すんのよ!」 「何か無性に腹が立っただけだ。隠し事はない。これ以上話すこともない。寝るぞ」 「あ、ちょ! まだ話終わってない!!」 「終わりだ終わり! 雑談なら明日でも明後日でもいつでもできるだろ」  アレンは反対を向いて強制的に話を終わらせた。体の内側から沸き上がるような妙な高揚感を無視しながら目を閉じる。  誰かと長く話すのが久しぶりだったからか、眠気は急に訪れ意識は暗闇の底に沈んでいった。
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