転生と戦い

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*  陽の光がやけに眩しかった。遮る建物が何もない草木の枯れた大地に降り注ぐのは、暖かな恵みではなく顔を灼くような熱線。特有の暑さにも十分慣れたと思っていたが、ジリジリとした熱に体中から汗が噴き出し、喉は水分を欲していた。ただ立っているだけなのに。  その日の気温は異常なほど高温を記録していた。時折、額の汗を拭いながら地平線の彼方をファインダー越しに見る。  戦場だ。より正確に言えば、戦場になる予定地付近でカメラを構えていた。戦場では一瞬一瞬で状況が変わる。天気も一刻一刻変わり続けるが戦場の方が何倍も早い。だから、どれだけ接近できるか、どれだけ現実(リアル)に近付けるか。つまりはどれだけ生き続けられるかが、評価に直結する。レンズをギリギリまで絞るように、ギリギリまで戦場に残る。経験とセンス、そして勘が物を言う世界。  空気が揺れた。ややあって爆発音が全身に突き刺さる。砲撃が始まった。  灼けつく肌を汗が伝い、乾いた大地へと落ちていく。迫る風と轟音に息を呑んで、しかし無心でシャッターを押し続ける。肌がひりつくのは熱のせいかあるいは近付く死のせいか。  カメラが切り取るのは一瞬だ。光景を収めるのは冷静な判断ではない。警鐘を鳴らす脳が発する言葉にならない声が、直感としてその瞬間を撮る。何千枚と写し取った現実のなかで使えるのはたった一枚か二枚といったところ。  空気が揺らぐ。少しの驕りと油断があったのかもしれない。暑さで脳がとろけていたのかもしれない。判断を誤ったとわかったのは、ずっと後のことだった。 「アラタ、いい写真取れた?」  現地の言葉で自身の名前を呼ばれたために、現実を忘れて振り返る。太陽のように輝く少女の瞳が目の前にあった。 「ああ──」  と返事をする間もなかった。砲弾の音がやけに近い。耳をつんざくような音と目が眩むほどの光を感じたとき、咄嗟に少女の身体に覆い被さる。  ──アレン(・・・)が覚えている前世の記憶はそこで幕切れだった。37年間の人生だった。思い出したのは、今の人生を歩み始めた6歳頃。ちょうど小学校に入学するか、しないかというときだ。だが、ここでは違う。教育など金持ちの貴族階級か平民でも上流の身分でしか受けることができない。 「アレン、久々の出番だ! わかっているとは思うが、今日の試合で何の成果も出せなかったら、お前、ランク下げるぞ!」  生気ややる気が全く感じられない漆黒の瞳が瞬いた。アレンは、ところどころ跳ねている黒髪をかきながら面倒くさそうに返事をすると、新聞紙や本が乱雑に置かれた机に投げ捨てておいたナイフを手に取った。  戦争に巻き込まれて死んだアレンは、今世では奴隷として戦いに明け暮れる日々を送っていた。
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