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ルームから出てきたアレンに対して、エミリアは不安そうな視線を送っていた。
「アレン──」
「問題ない。何も怖いことは起こらないさ」
「そう? それなら、私もすぐに行くわ」
安堵した笑顔を向けたエミリアは入れ替わるようにルームへと入っていく。内側から鍵が掛けられた。
「さて、と! どうだった? 適性は?」
扉の近くに待機していたシリルが興味津々に聞いてくる。
「やはり新聞記者らしい」
「そりゃウソだね! そんな職業は示されないはずだよ、ねぇ?」
シリルは同意を求めて隣にいたディアナに話し掛けた。ディアナは困ったような愛想笑いを浮かべると、アレンに近付いてくる。
「ええ。ギルドなので戦闘向きの職業しか示されないはずです。そして、これを……」
おずおずと見せた一枚の羊皮紙にはギルドで揃えるべきチェックリストが書かれていた。
「適性通りに進むのか、それともご自身のやりたいように進むのかは自由です。このリストを参考にスキルや武器をお買い求めください。ただし、ギルド員ですから何かしらの依頼を受けていただく必要はあります。一定期間依頼を引き受けていただかなければギルドを退団してもらわなければなりません。くれぐれもご留意ください」
「わかった」
頷くとチェックリストを受け取る。スキル入手の方法や武具の購入方法、簡単な職業一覧が載っているなかでアレンは見慣れない単語を見つけた。
「スキル……ポイント? なんだこれは」
「そちらは──」
「ボクが説明するよ! エミリアが戻ってくるまで少し時間がかかるだろうから、お店を回りながら説明していいね?」
またシリルが会話に割って入ってきた。アレンは少し考えごとをするように目を細めるも同意する。
「じゃあ! 行こうか! ディアナさんはここで待ってて!」
*
アレンはシリルの案内で2階の奥のスペース、スキル付与所──通称「スキル屋」へ訪れていた。ここではスキルポイントをスキルへと変換し、好きなスキルを取得できるらしいのだが。
「──つまり、これまでの戦闘経験が数値化されたものがスキルポイントで、そのスキルポイントを使うことで任意のスキルを入手できるということか?」
「そういうこと! 流石、飲み込み早いじゃん!」
シリルが褒めるように手を叩く、もアレンは納得していなかった。
(ゲームシステムなら理解可能だが、リアルでは理屈が通らない。魔法技術の発展と神の奇跡で成り立つようだが──考えても無駄か)
「それで、スキルについて説明してくれ」
「はいはい〜スキル一覧を見せてあげてくれない?」
シリルがお願いしたのは、スキル付与所を管理しスキルを与える役割を担う聖職者だった。スキルは神の力が媒介しているために聖職者が適任らしい。クラーラやモニカと違い、黒っぽい衣装を着ているのはスキルを司る神は女神ユセフィナではなく、軍神マルスだからだ。
「こちらが現在のスキル一覧です」
渡されたのは使い古された一冊の冊子だ。破れはないが人の手垢がついてよれよれになっている。
(こういうところは現実に則っているんだな)
水晶球のようにディスプレイ的なものに表示されるのかと思っていたアレンは、拍子抜けしつつ冊子をパラパラと捲っていく。
「説明すると、スキルと魔法は別物なんだ。原理が違うからね。魔法はあくまでも精霊や女神ユセフィナの力を借りている。でも、スキルは軍神マルスの力が元にあって、人間が改良を重ねてできたもの。だから、ここでは魔法は覚えられない」
アレンの隣りに並んだシリルの長い指が一つのスキルを指差した。
「魔法そのものではない魔法っぽいスキルも含まれるよ。たとえばこの全属性付与は現存する全ての魔法属性を武器とか防具とかに纏わせることができる強力なスキルだ。もちろん、強力なものほどスキルポイントが必要になるから、簡単に入手することはできないけどね」
アレンは、ドラゴンのように炎を纏っていた斧を思い出していた。
(あれは火属性単体の付与スキルってことか)
「スキルは大別して2種類。一つは直接戦闘に役立つスキル。主に武技だね。特定の動作で強力な技が発動するよ。もう一つは属性付与みたいな間接スキル。地味なものも多いけど、使いこなせば強力だよ。さあ、どうする?」
シリルの口調はどこか上滑りをしていて試すようなところがあった。気にせずにアレンは自身に最適なスキルを選ぶ。
(……なるほど、だとしたら俺は──)
「まずはこの【速読】スキルを選ばせてもらう」
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