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「もっと打ち込んでこい!」
「はい……!」
エミリアは細身に似合わない鉄の大剣を何度も何度も振るった。スキルと連日の鍛錬の成果で、剣もろくに持てないような闘技場の頃とは比べ物にならないほど剣を振るうスピードも力も向上しているが、まだまだ実戦には遠く及ばなかった。
額から目に入るほど大量の汗をかいているにも関わらず、相対する者は汗一つかいていないどころか息も上がらず涼しい顔をしている。
振るう側から剣が弾かれ、エミリアは唇を軽く噛んだ。
(遠い──だけど、諦めない!)
大きく踏み込むとエミリアは空へと高く跳んだ。落下する勢いを剣に乗せて思い切り振り下ろす。
剣士の適性があるとされたエミリアが取得したスキルは絶対剣技だった。少ないスキルポイントの中で吟味して選んだそのスキルは、剣という名称で呼べる武器種ならばどんな武器でも自在に操れるというもの。
見た目は重く見えるが、ソードマスタリーがあればすぐに手に馴染んでくれる。エミリアは飛ぶことを覚えた鳥のように自由に剣を扱った。
「はぁっ!!」
気合いとともに力を込めた一撃が相手の剣に接する。
キーン、と高い金属音がして弾かれたのはエミリアの剣ではなく相手の剣。
エミリアは着地と同時に丸腰となった相手の首元に剣を突きつけ、嬉しそうに口を開けた。
「1本取ったわ!」
訓練を始めて3日にしてエミリアは歴戦の戦士を打ち負かしたのだった。
「参った」
両手を上げた相手は、苦笑するとすぐに真面目な顔に戻った。エミリアの剣が離れると、地面に落ちた自身の銀の剣を拾い上げる。
一つ一つの所作が完璧でエミリアはその女性の姿を目で追っていた。
「流石だ。エミリア」
「ありがとうございます。でも、カルメンさんが訓練に付き合ってくれたから」
「クラーラから頼まれたからな。それに後輩を育てるのもギルド員の仕事のうちだ」
カルメンは長い銀色の髪を縛っていた紐を取ると、軽く首を振って前髪を払った。
アレンとエミリアがギルドへの加入を決めてからあっという間に時間は過ぎた。
その間、アレンはクラーラのコネを使い有言実行とばかりに新聞社で臨時採用され、本当に新聞記者として市内を駆け回る日々を過ごしていた。
正式に反ギルド組織──ゴッド・ランスに加入したエミリアは、そんなアレンに呆れつつ、来る任務の日のために自身を鍛え上げていた。
そんなエミリアの指南役となったのが銀髪の騎士と呼ばれるカルメン・レガルド。クラーラと同じゴッド・ランスの一員であり、聖ギルドにおいてもクラーラと肩を並べる【5団長】の一人だった。
ギルドはチームを組んで動く。少人数から大多数まで幅は様々だが、基本的にどのチームも馬の合う者同士で集まり、離れと離合集散を繰り返し現在は大きく5つの派閥に分かれていた。そのうちの一角を担うのがカルメンで、彼女はクラーラと同じ穏健派に属する。
性急なギルドの対応や一部の違法脱法行為を良しとしないグループだ。必然的にカルメンはクラーラと組み、今のギルドを変えようと反ギルドを立ち上げた。
「何だ? 私の顔に何かついているのか?」
「あっ、いいえ、すみません!」
カルメンは猛々しい。気質の違いもあるのだろうが、エミリアは彼女にクラーラとはまた違う匂いを感じていた。
クラーラがやはり聖職者らしく穏便にことを進めようとするのに対して、カルメンは間違っているものには間違っていると正々堂々言える強さを持っている──そんな気がしていた。
「さて、今日はここまでとするか」
「はいっ!」
鞘に剣を収めると、2人は雑談にしながら中庭から修道院の中へと戻っていく。雑談と言っても一方的にエミリアが話していることが多いのだが。
「おかえり〜」
中庭の入口で待ち構えていたのは相変わらず目深にフードを被ったシリルだった。
「シリル! どうしたの?」
フードの下の口がニヤリと歪んだ気がした。
「任務だよ。初任務。詳しくはクラーラさんが待ってるから直接伝えるってさ」
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