アレンの力

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(やはり、今回のボスキャラはヴィポか)  将棋で言えば王将、チェスで言えばキングが一目でわかるように、綺麗に1マスの区画に収まっているヴィポの身体の周りをなぞるように血のような赤色が纏わりついている。 (勝利条件1は、チェック・メイト。ヴィポを倒すこと、か)  だが実際にはそれが難しいことはわかっていた。ナイフ一本では肌に傷をつけることもできない。過去、幾度となく対峙してきてヴィポが誰かに倒されるのを見たことがない。  結局はだから、試合が終わるまで逃げ切るしかない。勝利条件2、だ。  アレンはふっと息を吐いて真上に顔を上げた。ぽっかりと穴の空いた小さな空は、雲一つ無く穏やかだった。気候が安定しているこの地のいつも通りの空だ。けれど季節は夏。今は良くとも戦いが始まれば、暑くてたまらなくなるだろう。 (ヴィポの勝利で決定だ。だが、何かしないとさすがにマズいか?)  戦いの前に、成果を上げないとランクが下がると脅された。同じ奴隷だとしても経験や強さ、人気度によってランクがある。A~Eまでの5ランク。A、B、Cまでは豪華さは違えど同じ個室だが、それ以下は共同部屋だ。現在のアレンのランクはC。つまり、今日、誰もがわかるような成果を上げられなければ個室を取り上げられて共同部屋へ強制移動させられる羽目になる。 (ゆっくり本も新聞も読めないのはお断りだ。目立ちたくはないが仕方がない)  アレンは会場を見渡すとまた深いため息を吐いた。  歓声が高まっていくにつれて会場のボルテージも上がっていく。最高潮に達したところで銅鑼が鳴らされて、試合が始まる。  試合とは名ばかりの殺し合いが。試合などと生温いモノを観客は求めていない。大金を注ぎ込み、ギャンブルの役割も兼ねている闘技場で行われているのは、人が血を流し、死の恐怖に立ち向かい、絶叫が轟くホラーショーだ。  それでも。ショーには終わりがある。ならば終わりまで生きていればいい。  アレンは知っている。かつて自分がいた世界でも同様のことが行われていたことを。奴隷は命すら保証されていないことを。 (力の無いものが生きるには逃げるしかない。自由を捨てても、どんな手段をとっても)  耳をつんざく銅鑼の音が鳴り響き、奴隷たちの雄叫びが沸き起こった。
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