不埒な男

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不埒な男

 かくんと膝が落ちた私を抱きとめて、「ベッドに行くか?」と黒瀬さんがささやく。  彼の匂い立つような色気にあてられてクラクラするけど、私はなんとか頭を振った。 「お風呂に入りたいです……」 「風呂か!」  言ったとたん、彼がニヤリと笑った。やけにうれしそうだ。  嫌な予感がして、慌てて言う。 「一人でゆっくり入りたいんです!」 「遠慮するな。しっかり洗ってやるから」 「け、結構です!」 「まぁまぁ」  結局、強引に風呂場へ連れ込まれ、隅々まで洗われた。  洗髪は美容院のように気持ちよかったけど、それからは不埒な手に翻弄されて、お風呂を出るときには息があがっていた。  ベッドにもつれ込むように倒れる。  黒瀬さんと目が合うと、磁力が発生しているかのように惹きつけられ、唇が近づいた。  優しいキスから深いキス。 (黒瀬さんのキス、好きだな)  唇を食まれるたびにジンとした快感が生まれ、私の官能を目覚めさせる。こんなの初めてだ。  キスがうますぎる。  経験値の違いを感じて、少し落ち込みそうになる。  本気になったらいけない人じゃないかと思った。私には手に負えない人……。 「瑞希……俺に集中しろ」  気が逸れたのを感じたのか、黒瀬さんは私の頬に手を当て、目を覗き込んでくる。  すると、さっきの自戒など吹っ飛んで、心が彼にからめとられる。  彼の舌がペロリと私の唇を舐めた。口を開けと催促するように。  おずおずと口もとを緩めたら、ねじ込むように彼の舌が侵入してきた。  それからはもう彼を感じることしかできなかった。  ***    翌朝、目覚めた私はぼんやり見慣れない部屋を見回した。黒瀬さんの部屋だと思い出す。  本人はいなくて、私はひとりベッドに寝ていた。  窓から明るい日差しが差し込み、日が高くなっているのがわかった。  時計に目を遣ると、十時過ぎだ。 「もうこんな時間!」    慌てて起き上がった私は、また黒瀬さんのTシャツ一枚という姿なのに気づく。しかも、まだ身体中に彼の感触が残っている。  思い出すだけで身体が熱くなってくる。 (私たちってどういう関係? 付き合うの? 黒瀬さんとこんなことになるなんて!)    でも、好きだって言ってくれた。ふと思い出して、頬がゆるんでしまう。  ううん、『好きな子』と言われただけよ。  それもどんな温度感で言われたものなのかわからない。  弄ばれているだけかもしれない。  一生懸命に落ち着こうとしたけれど、浮かれてしまっている自分がいた。
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