827人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
本命じゃない?
「よい設計をするには、ささいな違和感を見逃さないことだ。それは人に対しても同じだと思ってる。今日、瑞希は一度も俺と目を合わせなかったな。なぜだ?」
(えらそうに!)
カッとしながらも、私は怒りを抑えながら答えた。
「なぜ? そんな繊細な視点を持っているのに、どうしてわからないんですか?」
わからないと言われること自体が腹立たしい。
その程度の存在だと言われてるみたいで。
私は胸に詰まってた言葉を投げつけた。
「どうせ、セフレに本命を見られても別になんとも思わないんでしょうね」
すると、殺気立った黒瀬さんが私の両肩を持ち、強引に振り向かせた。
鋭い目がよりいっそう尖っていて、怖いくらいだ。
「誰が誰のセフレだって?」
低い声で問い詰めてくる。
そんなこと言いたくなくて、私は横を向く。
「私はそんなこと思ってません!」
「俺だってセフレだなどと思ったことはない!」
黒瀬さんが怒鳴った。
なんで私が怒られないといけないのかと思い、私も怒鳴り返す。
「セフレじゃなかったら、本命の代わりですか!?」
「本命ってなんだ!? ……ちょっと待て。もしかして綾香のことか?」
いきなり彼は理解したのか、額に手を当てた。
もしかしなくても、そうに決まってる。なんでそれを思いつかなかったのかが不思議だ。
でも、彼は「まいったな」とつぶやいてから、キュッと口端を上げて、いつもの笑みを浮かべた。
「嫉妬したのか?」
癪なくらい色気のある顔で、私の頬を撫でてくるから、その手を振り払った。
(あんなの嫉妬するに決まってるじゃない!)
やるせない気持ちで彼を睨みつける。
そうでもしないと泣き出しそうだったのだ。
それなのに、黒瀬さんは私を抱き寄せてきた。
私は手を突っ張って彼から離れようとするが、その力には敵わず、腕に囲われる。
黒瀬さんは顔を近づけて、目を合わせた。
「瑞希、誤解させて悪かった。あいつは妹だ」
「え? なに言ってるんですか。そんな白々しい嘘をつかなくてもいいんですよ?」
「嘘なわけないだろ。俺のもともとの名前は神野諒だ。縁を切ったから、母方の姓の黒瀬を名乗ってるが」
「縁を切るって……えぇー?」
突然の情報量に私は混乱して、声を上げた。
黒瀬さんが実は神野さんで、綾香さんは妹で……?
ってことは、綾香さんは本命じゃない?
私はまじまじと彼を見つめた。
「俺が好きなのは瑞希だ。なんで勝手にセフレになってるんだよ」
黒瀬さんがぼやく。
いまだ信じられない思いで、彼を見上げる。
黒瀬さんが好きなのは私?
最初のコメントを投稿しよう!