本命じゃない?

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本命じゃない?

「よい設計をするには、ささいな違和感を見逃さないことだ。それは人に対しても同じだと思ってる。今日、瑞希は一度も俺と目を合わせなかったな。なぜだ?」 (えらそうに!)  カッとしながらも、私は怒りを抑えながら答えた。 「なぜ? そんな繊細な視点を持っているのに、どうしてわからないんですか?」  わからないと言われること自体が腹立たしい。  その程度の存在だと言われてるみたいで。  私は胸に詰まってた言葉を投げつけた。 「どうせ、セフレに本命を見られても別になんとも思わないんでしょうね」  すると、殺気立った黒瀬さんが私の両肩を持ち、強引に振り向かせた。  鋭い目がよりいっそう尖っていて、怖いくらいだ。 「誰が誰のセフレだって?」  低い声で問い詰めてくる。  そんなこと言いたくなくて、私は横を向く。 「私はそんなこと思ってません!」 「俺だってセフレだなどと思ったことはない!」  黒瀬さんが怒鳴った。  なんで私が怒られないといけないのかと思い、私も怒鳴り返す。 「セフレじゃなかったら、本命の代わりですか!?」 「本命ってなんだ!? ……ちょっと待て。もしかして綾香のことか?」  いきなり彼は理解したのか、額に手を当てた。  もしかしなくても、そうに決まってる。なんでそれを思いつかなかったのかが不思議だ。  でも、彼は「まいったな」とつぶやいてから、キュッと口端を上げて、いつもの笑みを浮かべた。 「嫉妬したのか?」  癪なくらい色気のある顔で、私の頬を撫でてくるから、その手を振り払った。 (あんなの嫉妬するに決まってるじゃない!)  やるせない気持ちで彼を睨みつける。  そうでもしないと泣き出しそうだったのだ。  それなのに、黒瀬さんは私を抱き寄せてきた。  私は手を突っ張って彼から離れようとするが、その力には敵わず、腕に囲われる。  黒瀬さんは顔を近づけて、目を合わせた。 「瑞希、誤解させて悪かった。あいつは妹だ」 「え? なに言ってるんですか。そんな白々しい嘘をつかなくてもいいんですよ?」 「嘘なわけないだろ。俺のもともとの名前は神野諒だ。縁を切ったから、母方の姓の黒瀬を名乗ってるが」 「縁を切るって……えぇー?」  突然の情報量に私は混乱して、声を上げた。  黒瀬さんが実は神野さんで、綾香さんは妹で……?  ってことは、綾香さんは本命じゃない?  私はまじまじと彼を見つめた。 「俺が好きなのは瑞希だ。なんで勝手にセフレになってるんだよ」  黒瀬さんがぼやく。  いまだ信じられない思いで、彼を見上げる。  黒瀬さんが好きなのは私?
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