目指すべきもの

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 花壇には春の花が咲き始め、小道沿いに生えているアジュガの青紫が目にも鮮やかだ。  手入れしやすいように多年草をメインで植えてある。  のんびりと穏やかな光景だ。 「こっちに来てくれ」  黒瀬さんが向かったのは庭に高台が作ってあるエリアだった。  散歩コース用の道もある。 「黒瀬さん、こんにちは」 「諒ちゃんじゃない。また反省に来たの?」 「今日は可愛い子を連れてきたのね。妬けるわ~」    おばあさんたちがわらわらと寄ってきた。  みんな親しげに黒瀬さんに声をかける。 「ばあちゃんたちも元気そうでよかったな」  明るく笑って、彼は答えた。  黒瀬さんって、おばあさんにもモテるのねとひそかにおかしくなる。  根本的に女たらしなのかもしれない。 「ん? 反省ってなんですか?」  ひとりのおばあさんの言葉に引っかかりを覚えて、聞いてみる。  黒瀬さんは苦笑して、顎で目の前の道を指した。 「この道はな、勾配が四度なんだ」  ゆるやかに上がっていっている道を見る。私が設計していたのと同じ割石も貼ってあって、洒落ている。  やっぱりなにも問題があるようには見えない。  なにが言いたいのかわからず、彼を振り返ると、黒瀬さんが口を開く前に、車椅子のおばあさんが動き出した。 「なるほど、今日はこの子に見せに来たのね」  すいすいと車椅子を操作して、小道の入口に来たおばあさんは手に力を込めて登り始めた。それは先ほどまでと違って、明らかに大変そうだ。しかも、割石のかすかな段差を乗り越えるのに苦労していた。  元気なおばあさんでこれなら、力の弱い人だったらもっと登るのが困難だろう。 「車椅子を押してみないか?」  黒瀬さんが言ってきた。その声が聞こえたようで、おばあさんは停まった。  私たちは小道を登り、おばあさんの後ろへ来た。 「押していいですか?」 「もちろんよ。助かるわ」  初めて車椅子を触る私はこわごわとグリップを握った。  動かしますよと声をかけてから、押してみた。思ったより重いうえに、段差の振動が伝わる。  細かい引っかかりが押しにくい。  小道は途中で右に折れていた。  そこからは割石ではなく、コンクリートの刷毛引き仕上げになっていた。急に押すのが楽になる。 「ここから勾配が1/15になっている。ぜんぜん違うだろ?」  悔しいけれど、私は素直にうなずいた。  たかが0.2度の違いと言ったことを反省した。段差だって、十ミリ以下でもこんなにがたついて、引っかかるとは思わなかった。 「あ、反省……?」
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