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「西郷隆盛は生きているんだ! R帝国の皇太子と一緒に日本に帰ってくるんだ!」
「都田、何おかしなこと言っとるんや? 西郷隆盛が生きてるわけあらへんがな」
「いや、生きているんだ。やつはR帝国に亡命していたんだ」
「……おいおい、おめぇは警官になる前、陸軍にいたんやろ? 西南戦争で活躍して、勲章もろたって自慢してたやん?」
「あぁ、確かに俺は、西南戦争で西郷軍と戦ったさ」
都田は、左腕に残る銃創を無意識にさすっていた。
これは熊本での戦いで負った傷だ。
都田は活躍が認められ、最終的に軍曹まで昇進し、政府から勲七等を授与されていた。
「西郷隆盛らの反乱軍と戦って、それで勲章もらったんやろ。西郷どんが生きてたら、その勲章は剥奪もんや」
そう言って、都田の同僚である警官たちは笑い飛ばした。
都田は陸軍を退役後、警察官として再就職していた。
現在の身分は、滋賀県警の巡査だ。
「……勲章を……剥奪される……」
都田はその言葉に恐れおののいた。
自分の名誉であり、拠り所でもある勲七等。
それを奪われることは、すなわち、自分自身の存在を否定されることと同義であった。
「ま、西郷どんが生きてるなんてあらへんがな。都田、安心しろ。R帝国に渡ったなんてこともあらへんから」
やがて警官たちは、来日してくるR帝国の皇太子の警備の話へと関心が移り、都田のことなど、もはや誰も気にしていなかった。
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