黒い法服

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 日本政府は、事後の対応に追われた。  この重大な外交問題をいかに穏便に解決するか。  大臣たちは頭を悩ませた。  まずは、犯人の処罰である。  警護を担当していた日本国の警察官による犯行ということで、国家の面目は丸つぶれである。  近代国家としてこれから国際社会で成り上がろうとしていた日本国にとって、その失態は大きな痛手となった。  国際的な信用にも関わる問題である。  行政の方では、都田を「死刑」にすることで日本国の反省の意を表すべきという意見で一致、司法に対し、「大逆罪」を適用して犯人を死刑にするよう求めた。  大国の皇太子を斬りつけたのである。  犯人は「死刑」に処するのが相当。  これが行政側の強い意向であった。 * * * * *  一方、裁判官たちの間では意見が分かれた。  被告人を死刑にするべきだという意見も出された。  しかし、。  今回の事件で適用できる法律は「謀殺未遂罪(殺人未遂罪)」。  謀殺未遂罪の最高刑は「無期徒刑(無期懲役)」であるため、であった。  そもそも、被害者を「殺していない」被告人を死刑にするのは、法律上かなりの無理がある。  しかし、政府からも、日本国民からも、R国民からも、被告人への死刑判決が求められている。  法務大臣をはじめ、各大臣たちは死刑の適用に向けて動き始めていた。  戒厳令を発動してでも、法を曲げて死刑を断行すべきとの意見も出された。  都田を拉致して拳銃で射殺するべきだと主張する大臣もいた。  しかし、そんなことをすれば、日本は法治国家ではなくなってしまい、かえって日本の国際的な信用を失うとして、その強行案は却下された。  R帝国としては、自国の皇太子を殺されそうになったのである。  これを口実に、日本に多額の賠償金を要求したり、報復攻撃を行ったり、領土の割譲を要求したりしてきてもおかしくない状況である。  行政としては、今回の件は特別であるとして、司法に対して法を曲げるよう要求。  つまり、謀殺であっても死刑を適用するよう司法に求めたのである。  しかし、大審院(最高裁判所)院長である小島は、その要求を
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