1 ミステリアスな彼との出会い

1/13
前へ
/14ページ
次へ

1 ミステリアスな彼との出会い

「……そこの君、待って! 止まってくれ!」 帰宅ラッシュ時の駅近くの人通りの多い往来で、不意に背後から声をかけられ、もしかして自分のことだろうかと振り向くと、 いきなりぐいと腕が引かれ、スーツの胸元へ、不意討ちで抱え込まれてしまった。 「……えっ、ちょ、ちょっと……チ、チカ……」 思わず”チカン”と言いかけた口が、ワイシャツの胸元へ押し当てられると、鼻先にふわりといい香りが漂ってきて、一瞬ぽわんとした気持ちに駆られた。 「悪い、チカンとかじゃないから。黙って、少しこうしていてくれないか……」 意外にやんわりと抱くその腕には拘束感などはなく、聞こえる声にも不快さは感じられず、むしろ耳触りが良いくらいで、いい匂いといい声のダブル効果に、ついくらりとほだされてしまいそうにもなったけれど── 「……何するんですか! 放してくださいっ!」 どこか現実離れしたようにポーッとしかけていた頭を、慌てて何度も振って現実へ立ち返ると、速攻でその場から逃げ出そうとした。 「……しー。ごめん。これ以上は何もしないから、少しの間だけでいい、こうしていてくれないか」 すがるように頼み込まれて、ふとその顔を仰ぎ見ると、思いがけず魅力的でクールな容姿が視界に飛び込んで、(うわっ、カッコよ……!)と、にわかに目を奪われた挙げ句──、 その、嗅覚も聴覚も視覚すらも(しの)ぐ三連コラボに、またもや(とりこ)まれそうにもなった──。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

447人が本棚に入れています
本棚に追加