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『もう少し付き合え』と言われたことで、帰る踏ん切りもつけられず、のろのろとした足取りで彼の後を歩いていた。
これ以上、どこに行くって言うんだろう……。ここで別れた方が心残りも少なくて、関係が尾を引くようなことだって、もうないはずなのに……。
──もしかして、彼の方は、そう思っていないの?
「そうだ、ちょっと、そこの店に寄らないか?」
そんな風にも考えていると、彼が口にして、ふと足を止めた。
指差されたその先には、有名なハイブランドのショップがあった。
浮かない気持ちを引きずりつつ、促されるままについて行くと、ショップの正面口には、きっちりと三つ揃いのスーツを着込み手袋を嵌めたドアマンがいて、「いらっしゃいませ」と、ドアを引き開けた。
ドアマンのいるお店なんて、入ったこともないんだけど……。こういう高級ブランドショップなんて、普段はウインドウ越しに眺めながら、自分には縁遠くてと素通りをするだけだし……。
初めて足を踏み入れるラグジュアリーな店内に、緊張しきりでたじろぐ私の傍らで、
「眞宮様、ようこそおいでくださいました」
彼の方は、ショップスタッフから名指しで呼ばれて、
「ああ」
と、それが、ごく当たり前のように返していた。
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