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「……。……えーっと、追われていたって、どういうことですか?」
やっぱりまずい人に関わっちゃったんだろうかと思いつつ、恐る恐る尋ねた。
「ああいや、それは置いといて。とりあえずのお礼はきちんとするから、いっしょに行こうか?」
「置いと……!」──置いとくの⁉ と、上げかけた反言も終わらない内に、ふいに手が引っ張っられて、
「ちょっと! お礼ってどこでするんですか? それに私、まだ行くとも言ってないですから!」
両足を踏ん張り連れて行かれるのを阻止し、たまりかねて言い返すと、
向こうは信じられないといった顔つきで、私を振り返って、
「……何だ、お詫びはいらないのか?」
大概に的はずれなことを口にした。
「……そういうことじゃなくて、」
「だったらいいだろ。行くぞ」
「いえ、だから……」
「これから帰るところみたいだし、他に予定もないんだろ?」
「ないと言えば、ないですが……」
なんだか口惜しい気持ちで、ボソボソと答えると、
「じゃあ、いいよな」
同意を得たとばかりに、再び手が引かれ、初めからそうだったけれど、どうにも相手のペースに押し切られっぱなしでと思う。
ただ、彼自身にはそれほど悪気があるようにも感じられず、私は半ば仕方のない気持ちでついて行くことにした──。
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