1 彼と一緒にいるその女性は、誰⁉

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女性の視線を捉えたまま、顎に手をかけ考え込むように黙っていた彼が、ふいに「……悪いが、」と口を開いた。 「悪いが、これから彼女と出かけたいんだ」 彼が唐突にそう言い、その女性だけではなく、私自身までもが唖然となった。 「けれどこの後は、私と時間を取るからと……」 困惑したように、上目に見つめる女性に、 「ああ、だが今日でなくても構わないだろう? 」 彼は含めるように告げると、 「いいだろうか?」 促すように私へ向き直った。 「い、いえでも、今日はそちらの方と、約束があるんじゃないでしょうか……」 どんな状況なのかもわからず、にわかには同意をしかねていると、 「……すまない、どうか聞き入れてもらえないか?」 もう一度彼が、女性に乞うように問いかけた。 「(とう)()と話す時間を取るべきなのはわかっているが、俺にとってはこの彼女のことも外せないんだ」 (”とうこさん”って言うんだ……。しかも名前で呼ぶ間柄で……) そう歯がゆく思う反面で、『──外せない』と言われたことに、漫然と囚われている自分のあざとさを()()ると、嫌悪感を伴い今にもえづきそうな苦みが、喉元をせり上がってくるのを感じた──。
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