1 ミステリアスな彼との出会い

6/14
前へ
/15ページ
次へ
──運ばれて来たケーキを一口食べて、その蕩けそうな口当たりに、一瞬フォークが止まらなくなりそうにもなったけれど、 「……。……あの、良ければどういうことだったのか、そろそろ教えてもらえませんか?」 やっぱり悶々と頭に(うず)()いている不信さは、そう簡単には拭い切れなくて、意を決して尋ねてみた。 「ああ……言わなきゃダメなのか?」 コーヒーカップを手に、口ごもる彼に、 「言ってくれないと、こっちもモヤモヤして納得がいかないので」 と、あくまで食い下がった。 「そうかー……」 すると、ため息混じりに返して、 「振った女に追いかけられていたって言ったら、信じる?」 私の目をじっと見つめ、そう問いかけてきて、そのむやみな軽薄さに面食らった。 「……信じる、って……。それが真実なのかも、私にはわからないですし……」 どういうつもりで、そんなことを訊いてきてるんだろうかと勘ぐる。 彼の言ってることが、嘘だったとして、嘘をつく意味は? あるいはそれが真実だとして、なんでわざわざ『信じる?』だなんて、ダメ押しで確かめてくるんだろう……。 そう思うと、頭の中はより混乱して、ますます翻弄されているように思えるばかりだった──。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

458人が本棚に入れています
本棚に追加