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「おい、起きろ。」
僕は、相棒を揺り起こした。んあー?と唸りながら目を開けた相棒も、一瞬経って「あ。」と声を漏らす。
————雨が、やんでいた。
あんなにさめざめ降っていた黄色い雨が、やんでいて。
その代わりに。
「なんだありゃ。」
「UFOだよ。」
「……ハア?」
「未確認飛行物体……なんて、呼ぶのは野暮だよね。うん、あれは宇宙船だよ、宇宙船。」
どうやら相棒は、宇宙を旅する手段にも技術にも興味がなかったらしい。
“あれ”がなんなのかも、わからないなんて。
……でも、事態の異様さだけは、まあまあ伝わっていたようで。
「夜騎士星のシンボルマークがついてる。友好か宣戦布告か……目的は不明だけど、たぶん前者だ。この赤いものばかり気にしている非生産的な星を征服したって、彼らにとっての利益は何もないし、そもそも彼らは戦争で有名だけど、それは自分の星の内部で全部完結してる。諸々から考察して、あそこに立ってる親善大使の旗は、別に騙そうとして作ったわけじゃなさそうだ……うん、すごいね。これはびっくりだよ。」
まさか。
あの、夜騎士星がロケットを飛ばすなんて。
しかも、こんな。
紅星とかいう、ちっぽけな僻地に。
「これは大事件だぞ。」
黄色い雨。
宇宙船の滑りをよくするため、宇宙に撒いた潤滑剤。
それが、ああいうものの扱いに慣れない星人が制御を失って、この星に降り注いだ。
そういう、ことだったんだろう。
ノウハウが確立されている商人たちだったら、万が一にもあんな失敗はしないのに。
……あのロケットの中の技術者たちは、さぞ、頭を抱えててんやわんやしていたことだろう。本当、お疲れ様。
「赤いものの自慢、できちゃうんじゃないか?きみ風の言葉で言うなら……マジのマジに。」
「………。」
僕は相棒に語りかけた。
相棒は固まっていた。妙に静かに、じっと……赤い空からゆっくり降臨してくるロケットを、凝視し続けていた。
それはもう、まるで銅像のように。
釘付けになって、動かない。
「……相棒?」
「なあ、」
僕の言葉に被せるように、相棒はこちらへ呼びかけた。
「もしも、本当に、夜騎士のやつらと……会えるとしたら。」
そこまで言って、相棒はくるりとこちらを向いた。
ルビーの如く透き通った、赤く美しい瞳が笑っていた。
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