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不便な世界と流行病
ここは町の外れのカフェ。
ロバートは幼なじみの友人エリックとお茶をしていた。
黒髪でわりと整った顔立ちのロバート…そして旧インドの王族を祖先に持つエキゾチックな顔立ちのエリック。
2人は同じ大学に通う悪友でもあり黙っていれば人目をひくのだが…どんな会話をしているのか?
気になりますな。
「で?愛しのマーガレット様に手紙の1枚でも渡せたのかな?ロバートくん?」
「………」
「おや~?結婚したいとほざいたのはどこの誰かな?」
ロバートは無言のままひたすら紅茶をがぶ飲み。
エリックはため息を吐き出すとコーヒーを飲み干し頬杖をしながら「昔に戻りたいな」とぼやいた。
「昔に?」
「そう…正確には革命前の文明に…」
そう…今は25世紀。
しかし21世紀後半に起きた王侯貴族の革命に便乗し『地球を守ろう!』『昔に戻ろう』とAIを破壊し文明は逆戻り。
電話はあるものの携帯電話もなく車より馬車が主流。
飛行機に関しては国のトップや一部の金持ちが乗る飛行船がそれにあたる。
-思い切りアナログな世界である-
「しかし手のひらサイズの持ち運べる電話やら手紙を電話で送る時代があったなんてな…」
「残り少ない資源を大切に使いましょうって昔の人間が使い過ぎただけだろ?とんだとばっちりだ」
ロバートがぼやくと…。
「本で読んだが精密機械が知能を持っていてそれで仕事を奪われる人間がいたんだってさ。それを憂いた連中が国を超えて協力して世界中の人工知能を破壊しまくったそうだ」
「し・か・も」
「東洋のある国では医療が発達しすぎて寝たきりの年寄りが胃に直接栄養流されて無理矢理生かされていたらしいぜ」
エリックがそう熱弁した。
無理な延命は虐待と言われているこの時代では考えられない…。
『個人の尊厳が守られるうちに無駄な足掻きをせず人生の終わりを静かに迎えよう』
これが25世紀の死に対する倫理観である。
「そういやお兄さん達は例の流行病を知っているか?」
ロバートとエリックの隣で新聞を読んでいた老紳士が話しかけてきた。
「「流行病?」」
2人は同時に老紳士に質問した。
「アレだよアレ…何だったか…最近物忘れがひどくて…」
話しをふってきたのに考え込む老紳士…。
(おいおい…じーさん)
(なんで話しをふってきたんだよ?)
「思い出した!『懐かしのヒロイン症候群』だ」
【懐かしのヒロイン症候群】
21世紀前半に流行った小説に感化された女子達にみられる病でたまーに男子でも症例がみられる。
この病は自分が物語のヒロインだと思い込み『自分は転生者』だと主張したり『自分は政略結婚させられる』『ザマァ』『婚約破棄』『悪徳令嬢』『聖女』など症状は多岐に渡る。
「いきなり話しかけて悪かったね…。私の名はジョージ…これでも元新聞記者でね」
「俺はロバート…大学に通っています」
「俺はエリック…同じく大学に通っています」
ロバートとエリックは『懐かしのヒロイン症候群』の事をもっと知りたいと、ジョージのいるテーブルに移動し連絡先を交換し合うのだが…ここから3人の不思議な友情が生まれジョージとエリックはロバートの恋に巻き込まれる羽目になるが…それはまだ神様しか知らない。
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