33 クロエ、己の欲を知る※

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33 クロエ、己の欲を知る※

 身体が熱くて目が覚めた。  上体を起こそうとしたところで、ぐるぐる巻きにされた毛布と、さらにその上から置かれた逞ましい腕に目を見張る。腕の持ち主はスヤスヤと赤子のように目を閉じて眠っていた。 (………私、いつの間に…?)  たしか先ほどまで冷凍庫で死にそうになっていたはず。  凍死するかの瀬戸際で、ここ暫くの自分の行いやら考えについて反省していたところまでは覚えているけれども、あの後どういうわけか助け出されたのだろうか?  記憶にない点を考えると、おそらく寒さと恐怖のあまり、気絶していたのだろう。  毛布から両手を引っ張り出して、開いたり閉じたりを繰り返す。少し違和感はあるけれど、特に問題は無さそうだ。指が欠損していたり、色が変わって壊死していたりしたらどうしようかと思っていたので安心した。 「………クロエ…?」  隣で目覚めたギデオンが、不安そうな目で見つめながら私の腰を抱き寄せる。ぐらりと倒れそうになった身体を突き出した右手で支えた。 「ギデオン……私、どうやってここまで?」 「夕方部屋に行ったらお前が居なかった。ロッソに聞くと、食糧庫を出て行方が知れないと言うじゃないか。だから、他の使用人も呼んで探したんだ。正直、冷凍庫で見つけた時は心臓が止まるかと……」  そう言ってまた抱き締める腕に力が入る。  つまり、ロッソも私が居なくなったことに気付いていなかったということだろうか。ギデオンが私を探して部屋に訪れなければ、私は今もあの暗く冷たい小部屋の中で閉じ込められたままだと?  恐ろしさが蘇って指先が震える。  意図せず目の上に涙の膜が張った。  優しい魔王をこれ以上心配させるわけにはいかないと、慌ててゴシゴシと目元を擦る。ギデオンの方へ向き直って笑顔を見せた。 「……ありがとう。あなたのお陰で助かりました」 「怖かっただろう?またお前に嫌な思いをさせてしまった」 「そんなことないわ。目が覚めて、ギデオンの姿を見たら安心したの……本当よ」  まだ不安そうに揺れる瞳を見つめながらそっと頬に手を添える。親愛を込めて短く口付けると、腰に回された腕に力が入ったのが分かった。  私は美しい銀髪を撫でてみる。  魔王は気持ち良さそうに目を細めた。 (………大きな動物みたいで可愛い)  ちゅっと再び額にキスを落とす。閉ざされた両方の瞼の上、高い鼻、ふっくらとした頬に口付けて、最後にもう一度唇を合わせた。 「……っ…ん、」  わずかに開いた隙間から温かな舌が侵入して、歯列をなぞった。動きの鈍い私の舌を絡め取って吸われると、身体の奥が甘く痺れる。 「…はぁ……ギデオン、私…」  耐えられなくなって控えめにシャツを引っ張ると、魔王は頷いて私の身体をベッドの上に横たえた。仰向けになったままで着ていたドレスが下からたくし上げられる。  そういえば昼間のドレスでこうした行為に及ぶのは初めてのことなので、私は自分で残りを脱ぐべきか迷った。お腹の上でくしゃくしゃになった朱色の布地が少し可哀想だ。  しかし、そんな呑気な考え事に時間を割いている間にもスルスルとドロワーズは下ろされて、足首を通って床に落ちた。魔王の熱い舌が足の甲を舐める。 「……っ、そんな場所、汚いわ!」  今日はまだお風呂に入っていない。  加えて、私はぐるぐる巻きにされて眠っていたので起床した時はかなり汗を掻いていた。蒸れた身体が気になって距離を取ろうとバタついてみたものの、ギデオンの上半身はビクともしない。 「お風呂がまだなの、待って…!」 「それは尚更良いな。どうりで甘い匂いがする」 「良くなんか───ンンッ、」  股の間に入って来たギデオンが下着越しに私の秘所に顔を埋める。私は、この男はとうとうそういった変態っぽい一面に目覚めてしまったのだろうかと困惑した。  恥ずかしくて堪らないのに、間近からの視線を感じて私はまたトロッと蜜が溢れるのを感じる。彼のことを注意する資格など無いのかもしれない。 「クロエ、指を入れてみて良いか?たしかこの場所は優しく触れた方が良いんだったな」 「えっと……ええ、そうね……」  長い指がショーツを潜って侵入し、確かめるように蜜穴の中に挿し込まれた。 「っやぁ、ゆび、いきなり…!」 「…すごいな、お前は本当に罪深い女だ」 「待って、ギデオン!増やさないで……っあん、」  二本目の指がぬかるみに嵌り、ぐぽぐぽっと掘るように膣内(ナカ)を掻き回す。私は拳を握って目を閉じながら上り詰めるまでの波を感じていた。 「んっ、ダメ、きもちいいのきちゃ…ッ……あぁ、あ、んあぁっ!」  絶頂して仰け反る背中をギデオンが支えてくれる。  力なく脱力する身体を労るように撫でるあたたかな手のひらに、私はなんとも言えない安心感を抱いた。そして同時に、もっと近くに行きたいと願いながら、布の下で主張する静かな魔王の分身に手を伸ばす。 「………ギデオン、来て。一緒になりたいの」 「あぁ、クロエ…夜伽の相手を頼んで正解だった」  深く深く貫かれて身体は嬉しくなって震えるけれど、夜伽相手という言葉は私の心に小さな傷を付けた。  どれだけ近付いても、彼を知った気になっても。  私はギデオンにとってただの夜の相手で、王女との子作りの練習台でしかない。求められるのはそれだけ。この強い男が私に優しくするのは、私が彼の指導者だから。 (そうよ……運命はいつだって変わらない)  悪役令嬢はどこまでいっても悪役で、愛のように見えるものは束の間の優しさ。三ヶ月という約束で報酬さえ貰えればそれで良いと思っていたのに、私はいつの間にこんなに欲張りになってしまったのだろう。  身体だけでは、満足出来ないなんて。  彼に言ったらきっと笑われる。
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