41 クロエ、元婚約者と会う※

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41 クロエ、元婚約者と会う※

 目が覚めると周囲は真っ暗だった。  身体を動かすと、ジャラッと重い金属の音がする。  冷たい床の上にはわずかに月の光が差し込んでいて、手の届かない月は鉄格子の向こう側にあった。まるで牢獄みたいだ、と思いながら息を吐く。  ロッソが人間だったなんて。  いいえ、それよりもライアスの申し出の方が問題だ。  自分が不要と見做して追い出した元婚約者を、子作りのためだけに呼び戻すなど正気の沙汰ではない。まず無礼極まりないことだし、私のプライドを踏み躙るような行為だ。 (………とうとう人の心も失ったのね、)  もはや公爵家でもないグレイハウンド家に逆らう権利など最初から無いと、見下しているのだろう。何処までも外道なことをする。  入り口の扉は残念ながら鍵が閉まっていた。  扉の下に取り付けられた小さな小窓は逃げ出せるほどの大きさではない。食事を投げ込むための場所だろう。  部屋の観察を続けていると、勢いよく扉が開いた。 「おお!起きたか!気分はどうだ、クロエ?」  ライアスは何が楽しいのか軽やかな声で元気よくそう問う。最悪です、と答えると尚のこと嬉しそうに笑みを深めた。 「今さっきビビを抱いて来たところだ。さっそくお前にも仕事をしてもらおうじゃないか、ほら、尻を出せ」 「嫌です、おやめください……!」  乱暴な手が私の服を引っ張り身体を押さえ付ける。  ドレスの裾から突っ込まれた手が下着をずり下ろした。抵抗する声も虚しく、熱り立った肉の塊が押し当てられる。悲鳴に近い声を上げた瞬間、慣らされていない蜜穴を切り裂くようにそれは膣内に押し入った。 「───あぁっ!」  どうして。なぜ。  そんな言葉が浮かんでは消える。 「っはぁ、緩くなったか?ロッソに聞いたんだが、お前は離島で魔族の男とまぐわっていたらしいな。化け物の相手をした女の身体だ、しっかりと俺の匂いを付けないと」 「いやっ……やめてください、ライアス様…っあぁ!」 「そう嫌がるな。お互い知った仲だろう?」 「んあっ、なんで、私の場所を……!」 「お前が消えた日、北部の農家の娘が上空を飛ぶ異形の姿を見たらしい。その化け物は海を超えていったと」  金を出すなら捜索すると名乗り出たから頼んだんだ、とライアスはこともなげに言って退けた。  ロッソの正体はつまり人間の娘。金銭を目当てに彼女は海を渡って島に辿り着いたようで、どういう縁でか使用人として城に忍び込むに至ったらしい。 「ロッソと話をさせてください!」 「残念だが、それは出来ない」 「どうして……っ!」 「ロッソはもう仕事を終えたんだ。必要なものは手に入った。これさえ有れば、事情を知る彼女は必要ない」  そう言ってライアスが見せたのは、ロッソが耳に付けていたイヤリングだった。青い宝石に付着したべったりとした血液を見て私は息を呑む。 「異国から取り寄せた映像石だ。彼女が目にした光景はすべてこの石を分析すれば分かる」 「………ライアス、あなたはそれでも王族なの!?こんなことが明るみになったらタダじゃ済まないわ!私利私欲のために人の命を使って、あなたは…!」 「黙れ……!!」  バシッと叩かれた頬が燃え上がるように痛んだ。  静かに涙を流す私の上で大きく息を吐いて、再びライアスは腰を動かし始める。気持ちが悪い。ドロドロの欲望と思念に塗れたこの男の子供をこれから身籠るのかと思うと、終わりのない絶望を感じた。 「………っあぁ、クロエ…悪く思うな」 「……ふ、んんっ…」 「子が出来れば良いんだ。二人ほど作ろう。第一王子と第二王子、二人居ればアンシャンテ家も安泰だ。北部の島については映像の解析を進めて、頃合いを見て攻め込む」 「やめて………!」  咄嗟に声を張り上げた。  ライアスは驚いたように目を開き、私の頬を撫でる。 「どうした?お前は平和主義なんだな。それとも、もしかして……化け物に心でも奪われたか?」 「………っ!」 「気味が悪いな。一度メイドに身体を洗浄させよう。綺麗に着飾って、俺をその気にさせることだけ考えろ。お前を抱くのはそれからだ」  そう言うと、ズルッと自身を引き抜いてライアスは私の身体を転がした。  後ろで扉が閉まる音を聞きながら、痛む身体を抱き締める。もしも、ロッソの映像石からあの島の鉱物の情報が明らかになれば、きっとライアスはすぐにでも島を自分のものにしようと兵士を募るはず。  ギデオンはピエドラ王女を攫いに来ると言っていたけれど、彼の存在が割れていれば危険でしかない。私の時のように上手くはいかないのではないか。  上体を起こすとカシャンッと小さな音がした。  ポケットに手を入れるとクジャータに渡された袋が出て来る。逆さにしてみたら鎖に繋がれた指輪のようなものが床に落ちた。 (……来てはいけないわ……来ないで、ギデオン)  指輪を握り締めて祈るように口付ける。  窓の外では、不安を煽るようにカラスが鳴いていた。
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