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43 クロエ、パーティーに出席する
ピエドラ・アンシャンテの十六歳の誕生日を祝うため開催されたパーティーは贅沢の極みだった。
ペルルシア中の美しいものを集めたのではないか、という美しい装飾に見目麗しい料理の数々。さすが一国の王女様というだけあって、祝福に駆け付けた貴族の数も相当だ。
婚約破棄して平民に落とした女を子作りのためだけに利用するというのは、さすがに王族としても聞こえが悪いと思ったのか、私は皆が集まる大広間ではなく別室で待機することになった。
使用人たちによって綺麗に化粧を施されたものの、乱暴に抱かれた痕は誤魔化せない。
「………娼婦の匂いがするわ、臭い」
聞こえよがしにそう言ってビビはプイッと顔を背けた。
隣に立つライアスが、機嫌を取るようにその腰を撫でる。
わざわざこんな場所に連れて来なくても、その名医を私を閉じ込めている塔に招けば良いのに。監禁まがいのことをしてまで跡取りを残そうとしている必死さを隠したいのだろうか。
その時、部屋の扉が開いて明るい声が部屋に響いた。
「お兄様…!マクレガー伯爵様がいらっしゃいました!」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべて兄に歩み寄るピエドラ・アンシャンテは、その細い右腕を彼女の想い人の腕に絡ませていた。私はぼんやりした頭で、今にも踊り出しそうな軽やかな足取りで私たちの前に現れたピエドラを見て、その隣に立つ男に目を遣った。
「初めまして、ライアス王太子殿下」
「ああ、君の噂は妹から腐るほど聞いているよ。こちらが婚約者のビビ、そしてこっちが懇意にしている友人のクロエだ」
「なるほど……お二人とも美しいですね」
そう言ってニコリと笑った顔を見て私は固まった。
眼鏡の向こうで黄色い瞳が弧を描く。
「………っなんで!」
「おっと、すまないね伯爵。クロエはこうした場に出るのが久しぶりなんだ。君は優秀な医師だと聞いたから、是非とも彼女の診察をしてほしい。あとで時間をいただけるか?」
「もちろんです。お力になれれば光栄です」
再び笑顔を深めてライアスと笑い合う男を私は凝視する。
それは、忘れることのないギデオンの姿だった。
立派な角こそ生えていないものの、何処からどう見てもあの魔王だ。どうしてこんな場所に、というか何故王女に気に入られてこうも易々と王宮に出入りしているのか。
「クロエは少し前まで魔族に連れ去られて国を離れていた。随分と酷い目に遭ったようでね、野蛮で下劣な奴らのことをすぐに忘れたいと毎晩泣いている。安心出来るようにしてやってくれ」
「はい……もちろんです」
私はギデオンの方を見ることが出来ず、俯いた。
自分なら選ばない真っ赤なドレスが目に入る。裾に付いたラインストーンが偽物の星のように照明の光を受けて輝いていた。
ギデオンは王女を攫うために接近したのだろうか?
あまりにも最悪の再会で、私はどんな顔をすれば良いか分からなかった。
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