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50 クロエ、両親に会う
「……クロエ!」
「まぁ!久しぶりだけど元気にしていたの!?」
久方ぶりに再会したグレイハウンド家の二人は特に目立った変化もなく、涙目で私を迎えてくれた。
ギデオンの気遣いでなんとか辿り着いた両親の暮らす家は、確かに前ほど大きくないけれど、十分快適そうで私はホッと胸を撫で下ろした。家事に不慣れな母のために、カバ首のメイドが付き添ってくれている。
「家事担当のホーンです。初めまして、クロエ様」
差し出された白い手袋を嵌めた手を握ってみる。
私より少し小柄なホーンはどうやら女の子のようだ。
「ホーンはバグバグの親戚だ。あんなことがあったから、使用人は慎重に選んだ方が良いと思ってな」
「バグバグの親戚…ですか?」
頭の中で思い浮かべるのは黒い煙を巻いたバグバグの本体のこと。
きっと両親はこの地に住む可愛らしい頭をした魔族の中身についてまだ説明を受けていない。私から何か教えてあげてあげるべきか悩んでいたら、後ろから歩いて来たギデオンが私の隣に並んだ。
「グレイハウンド公爵、」
突然の呼び掛けに父のアッサムは驚いた顔をした。
「ギデオンくん、私はもう公爵ではない。ペルルシアでは平民に落ちた我が一族をこうして受け入れてくれたこと、本当に感謝しているよ」
「アンシャンテの決定に意味などありません。この場所では公爵の好きなように振る舞ってください。王都ほど豊かな場所ではありませんが、不足があれば教えていただければ最善を尽くします」
しっかりと受け答えするギデオンの頭には角がない。
やはりあの二本の角は収納可能なのだろうか?
そんなどうでも良いことを考えながら、私は以前自分が編んだ歪な帽子の存在を思い出した。そういえば、編みかけだったあれは何処へ行ったのだろう。今度バグバグに聞いてみよう。
「こうやって誰の目も気にせずに生活するのは初めてだわ。北部に移ってからは、やはり好奇の目にさらされていたから……」
しんみりとそう言う母ペコーの肩を父が抱く。
私は自分のせいで変わってしまった二人の人生のことを思って胸が痛くなった。公爵家として不自由ない暮らしをしていたのに、私がライアスに婚約破棄をされたせいで、謂れのない罪を被ってグレイハウンド家は没落してしまったのだ。
「……ごめんなさい…お父様、お母様。私がもっと上手く振る舞えていれば……」
「クロエの責任ではない。ライアス王子の心変わりなど誰にも止められぬことだ。我が家は被害者なのだよ」
「それにほら、こうやって親切にしてくださるマクレガー伯爵に巡り逢えたわけだし」
母の言葉に私は顔を上げた。
ギデオンは視線の先で笑みを浮かべている。
彼はいったい二人に自分のことをどう紹介したのだろう。この場で確かめるわけにもいかないし、あとで時間を取って確認する必要がある。返答によっては、今後のために私の口から説明をするべきかもしれない。
(魔族なんて……信じてくれるかしら?)
どうやら異国の貴族が私的に持っている離島にお招きされたと考えているらしい両親を前に、私は途方に暮れた。ホーンの被り物を見ても違和感を抱かないあたり、二人はかなり鈍感な方ではあると思う。
しかし今のところは、変わりない笑顔を浮かべる両親と、彼らを受け入れてくれた魔王の優しさに感謝するべきだと思った。
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