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53 クロエ、本音を暴露する
どうやら不貞寝をしていたようで、窓を見ると太陽はちょうど真上に来ていた。
のそりと起き上がって鏡の前に立つ。
自信のなさそうな顔をした女が愛想笑いを返す。
ライアスが私を選ばなかったのは私が彼の理想の女ではなかったから。豊満な胸、男の庇護欲をくすぐる態度。ドリアナだってそうだ。だけど、今更私は彼女たちのような見た目にはなれない。
(どんなに憧れたって………)
胸元に掛かった髪を掻き上げてみる。
最後の夜にギデオンが落とした赤い痕はすでに薄くなって、目に見えなくなっていた。畏れ多くも魔王の子を産みたいと申し出たけれど、そもそも彼のタイプがドリアナのような妖艶な女であれば、私はとんでもない勘違い女ということ。
夜伽をした仲だし、私を抱くときのギデオンは特に何かを気にしたりする素振りも見せずに健全な男を装ってくれたから、私はまったく気付かなかった。
恥ずかしい。
無知故に突進した自分が。
身体を掻き抱いてベッドの上で丸くなっていたら、部屋の扉が開いてバグバグの声がした。
「クロエ様……様子は如何ですか?」
顔も上げずに私は返事を返す。
「心配掛けてごめんなさい。少しだけ不安になったの」
「不安………?」
「さっきの女性、ギデオンの元恋人でしょう?私はあんなに魅力的な身体じゃないし、あれほどの相手が居たなら、彼はどんな気持ちで私を見ているのかしら?」
「大丈夫です!クロエ様にはクロエ様の魅力が、」
「うん…分かってるんだけど、嫉妬しちゃって……」
バグバグは答えに困ったのか閉口する。
子供っぽい愚痴を並べてしまったことを後悔した。
「ダメよね。そばに置いてもらえるだけで感謝するべきなのに。どうしてかどんどん欲張りになっちゃう」
生涯愛すると言ってもらえたのだから、それだけで私は十分なはずだ。あんなに言いたかった言葉を今では自由に伝えることが出来るし、同じ場所で生活を共に出来る。
それだけで感謝するべきこと。
「ごめんなさい……ウジウジしちゃった。皆のところに戻ろうかしら、バグバグ……?」
ガバッと起き上がって入り口を見て、私は驚いた。
そこには鳩首ではなく魔王の姿があったから。
「ぎ、ギデオン……?」
「すまない。様子を見ようとバグバグに付いて来たんだが、どうも放って置けないことを言っていたから」
「バグバグは!?」
「厨房の方へ返したよ。二人にしてくれと言った」
「まさか…全部聞いていたのですか……?」
「そうだなぁ、お前の不安の話あたりからは」
「………全部じゃないですか」
再び下がった視線を足元で泳がせる。
恥ずかしくてギデオンの顔が見れない。
本人を前にしては決して曝け出せない本音をこれでもかと言うぐらい垂れ流してしまった。だってまさか、ギデオンが一緒に立っているとは思わなかったのだ。
「随分と欲張りになったんだな」
大きな手が私の頭を撫でる。
赤毛の下で顔は燃えそうに熱い。
「ごめんなさい、あなたが聞いてるなんて……」
「嬉しかったよ。お前の気持ちが聞けて」
「恥ずかしいです、少しそっとしてください」
顔を覆っていた両手は呆気なく引き剥がされた。
ギデオンは私の手の甲に口付けを落として口角を上げる。私は知っている。この悪戯っぽい笑い方はきっと、彼がこれから何か私を困らせることを言う前触れだ。緊張と期待の両方が鼓動の速さを上げた。
「クロエ、俺も欲張って良いか?普段どんな気持ちでお前を見ているか、教えてやろう」
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