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54 クロエ、魔王の愛を知る※
「………っん……あ、んん…ッ」
交わす口付けは段々と深くなり、私の息が荒くなった頃、ギデオンは顔を移動させて首筋に吸い付いた。
「クロエ、こっちを見て」
そっと視線を上げた先で笑う魔王は妖艶で、頭がくらくらする。見せ付けるように舌を這わしてなだらかな双丘を降りていくと、背中のホックに手を掛けてギデオンは私のドレスを脱がせた。
また頭の片隅にまた、ドリアナの顔が浮かぶ。
すべての所作にその存在を感じてしまう。
「………どうした?」
余程分かりやすく落ち込んでしまったのか、ギデオンが心配そうに尋ねるので私は首を振った。
「正直…嫉妬しているみたいです」
「嫉妬?」
「ドリアナさんがあなたとそういう関係だったと知ってから、心がモヤモヤするんです。気になって……」
「………そうか」
しんみりとした返答と裏腹にやけに嬉しそうな魔王を見て私はキッと睨み付ける。
冗談ではないのだ。私がこんなに苦しむこのドス黒くて重たい気持ちを彼にも分かってほしい。自分がここまで誰かのことを気にして、嫌な想像を展開するとは夢にも思わなかった。私はもしかして嫉妬深いタイプだったの?
「本当なんです!何をしてもドリアナさんのことを考えてしまいます。だって元恋人なんでしょう…?」
「いや……恋人ではないな」
「え?」
「こういう言い方をすると誤解を生むかもしれないが…」
ギデオンは言葉を選びつつ慎重に続ける。
「サキュバスにとっての性交は食事みたいなもので、人間のものとは違う。ドリアナの相手なんてガフだって務めたことがあるはずだ」
「……は……えぇ…!?」
「実際のところ、スポーツなんだよ。あの淫魔は馬鹿みたいに体力があるし、こっちが終わってもずっと腰を振り続けるから疲れる」
「そ、そんなの聞きたくありません!」
怒るべきか呆れるべきか悩んだ。
つまりギデオンの主張を汲み取ると、一対一の恋人的な関係ではなく、ドリアナと彼はいわゆるセックスフレンド的なものだったのだろうか。
それはそれで嫌なんだけど。
「だいたい、嫉妬云々とお前は言うが、今まで散々ペルルシアの王子の話で俺の心を抉ってきたのはクロエだろう」
「………え?」
「初っ端から聞いてもないのに王太子の教育で濡れやすいだの何だのと……あれはかなり傷付いた」
「ごめんなさい、閨の指導者として慣れている女であると思われたくって………」
「好きな女が他の男に一途だったなんて知りたくない」
「………っ!」
真っ直ぐに私を見つめる黄色い目に胸が高鳴る。
心臓が苦しくなって視線を逸らすとグッと顎を掴まれた。
そのまま重なった唇に目を閉じる。両手が頭の上で押さえられて、私の身体は再びベッドの上に沈んだ。甘すぎる口付けに応えながら、上に跨がる魔王の熱を感じる。
(ギデオンも嫉妬してたの……?)
知らなかった。
熱心に私の話に聞き入っていた彼が、夜伽の間に私に少しでも気持ちを寄せてくれていたなら、そんなに嬉しいことはない。またジワッと滲んだ涙を見て、ギデオンは慌てたような顔をする。
「また何か不安に?」
「いいえ……嬉しくて」
「?」
「ずっとあなたがどう思っているか心配だったので、わずかでも好意を抱いてくれていたなら幸せです」
「………無自覚ならタチが悪いぞ」
「え?」
ギデオンは言葉を切って私の胸に顔を沈めた。
呼吸に合わせて上下する銀色の頭を眺める。
「あまり可愛いことを言うな……我慢が出来なくなる」
そう言って見上げる赤い顔が可愛くて思わず笑った。
「我慢なんてしないでください。あなたのものですよ」
「クロエ、そういうところだ」
困ったように溜め息を吐いてギデオンは私を掻き抱く。
不思議ともう、不安な気持ちは薄くなっていた。
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