56 クロエ、くしゃみを聞く

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56 クロエ、くしゃみを聞く

 ギデオンが教えてくれた通り、両親はたしかに家庭菜園に精を出して生活を楽しんでいるようだった。  招かれた家の中で、様々な野菜を調理した皿を並べながら母が一つ一つの料理について解説してくれる。私はそれを聞きつつ、土の具合の変化をギデオンに教える父の姿を見ていた。 「マクレガー伯爵のおかげです!いただいた肥料を使ったら、随分と成長スピードが上がりました」 「それは良かった。しかし、お身体を大事にしてください。公爵がここまで菜園を広くすると考えていなかったので、手入れの者が足りなかったら人を呼びますが……」 「その心配は要りませんよ。ホーンが時々手伝ってくれます」  アッサムが振り返った先で恥ずかしそうにカバ首が笑う。  私はその様子を見て、拳を握って両親の方を向いた。 「あのね……お父様、お母様」  言葉を切って深呼吸をする。 「実は、この島のことなんだけど……」 「クロエ、私たち分かっているわ」 「え?」  母の声に思わず飛び上がった。  両親は顔を見合わせて笑みを浮かべている。 「この場所、ちょっと変わってるんでしょう?貴女が説明する前から知ってたの。ホーンに尋ねたら困った顔をしていたけれど、きっと事情があるのよね」 「申し訳ありません、公爵夫人。これは……」 「貴方がこの場所の管理をしているのよね、マクレガー伯爵?それとも別の呼び方の方が良い?」 「お母様、」  困惑する私とギデオンの前で父は土のついた手を払った。  そのまま私たちの方へと近寄ると、ギデオンの前で大きく腰を折る。私はビックリして掛ける言葉を失った。ギデオンも驚いたように慌てている。 「クロエのことを頼むよ」 「公爵……!」 「爵位なんて何の意味もない。君が私たちの娘を大切にしてくれて、支えになってくれると言うなら、それ以上の喜びはないんだ」  皺の寄った父の手がギデオンの手に重なる。  暫しの間、二つの手は硬く握手を交わした。 「必ず、クロエのことを幸せにします」 「その必要はないみたいよ」 「え?」  母は人差し指で私の方をちょんと指差した。 「もう十分、幸せそうだもの」  その時、大きなくしゃみの音がして皆の視線を集めたカバ首のメイドは恥ずかしそうに肩を竦めた。ふるふると羞恥心に震えるホーンの姿に私は吹き出してしまう。 「ごめんなさい、甘酸っぱくてつい…!」 「いいえ。父と母のことをよろしくね」  また様子を見に来ると伝えて、私たちはその場を去った。
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